2020年1月7日火曜日

これまで取材した子育て先進国と日本の変化を整理ー2020年版

昨年のベルギー取材を終えた時点で子育て先進国取材は5カ国となりました。過去にも2度子育て先進国と日本の違いを整理してきましたが、ベルギーを加えて各国の変化も加えて再度整理してみます。

過去の取材国のそれぞれの取り組み詳細(取材時)については、過去の記事を参照いただくとして(最後にリンクを付けます)、最初のニュージーランド取材からは8年、カナダ(BC州)から7年など随分経過しているため、取材時と現状とでは大きく変化している可能性もあります。
※ニュージーランドの新しい情報は、「ニュージーランドにおける子育て支援政策~乳幼児保育政策を中心に:クレアレポート No.450」などをご覧ください。

2010年代は北欧諸国も出生率が低下


上記の表には最新データしか示していませんが、例えば合計特殊出生率をOECDのデータから抜き出してグラフ化(2010~2017)すると以下のようになります。
このグラフにはmikuで取り上げた北欧の2国、スウェーデン(高祖常子が取材)、フィンランド(現地取材はせず、大使館と周辺取材のみ)も加えてみました。
OECD全体では1.7をキープして変わらないのですが、子育て先進国として取材した国は各国とも漸減傾向です。特に幸福度や様々な指標で上位に位置する高福祉国フィンランドの出生率の急降下は、世界的にも話題になりました。
最高レベルの子育て政策も無駄? 急減するフィンランドの出生率(Forbes JAPAN)
こうしてみると、政策的に一番成功しているのはフランスのように見えます。

日本の女性の就業率も北欧並みに上昇したのに
出生率は上がらない


次に、女性の就業率の変化を見てみます。
出生率が各国共に漸減しているのと反対に、女性の就業率は漸増しています。
日本の女性の就業率も2010年時点ではG7全体の平均以下でしたが、ニュージーランド取材翌年の2013年に追いつき、2019年には71%に達しました(グラフの色を揃えられず、見づらくて申し訳ございません)。
これまでは女性の労働力率と合計特殊出生率は正の相関関係があると言われ、女性の社会進出が進んでいる国ほど出生率は高いとされてきました。日本の女性も北欧諸国並みの就業率に達したのだから、出生率も北欧並みに上がるかというとそうはなりませんでした。上の2つのグラフを見る限り、この相関はもはや当てはまらなくなっています。
この相関の真偽と根拠について確かめようと探していたら、こんな論文に行き着きました(なんと、2006年の論文です)。 

独立行政法人経済産業研究所 客員研究員 山口 一男氏(シカゴ大学社会学部教授)の研究論文
女性の労働力参加と出生率の真の関係について-OECD諸国の分析と政策的意味
 
ここに、指摘してあるのは、「女性の労働力参加の増加は出生率の減少を生み出す強い傾向にあったが、1980年代以降その影響の大きさが弱まったために出生率の減少を抑えた」ということであり、女性の社会進出が出生率を上げるわけではないということです。
出産・育児の機会コストを規定するのは女性の立場からみた仕事と家庭の役割の両立し易さであり、この役割両立度は、
① 家族環境(夫が家事・育児を共にするなど)
② 職場環境(就業時間や場所に柔軟性があるなど)
③ 地域環境(託児所施設が十分にあるなど)
④ 法的環境(育児休業が保証され所得補償が十分にあるなど)
といった様々な社会環境に依存すると指摘しています。
さらに、この論文では働く女性の出生率を増加させる要因は「仕事と育児の両立度」と「職の柔軟性による両立度」であり、後者が与える影響のほうがより大きいと結論づけています(2006年)。
この論文を読むと、取材した国々に当てはまることばかりです。是非ご一読ください。
しかし、フィンランドの出生率低下を見ると、更に一歩進んでこの役割両立だけでは語れない段階にきているのかもしれません。

日本で近年大きくクローズアップされた保育所問題の背景には女性就業率の増加があります。山口氏が指摘する仕事と家庭の役割を両立しやすくする環境の一つである③地域環境の要素ですが、保育所を増やしても待機児童がなかなか減りません。出生数は減っているのに女性の就業率が上がり、保育を必要とする家庭の増加数が子どもの減少数を上回っているからということがこのグラフからも良くわかります。
※令和元年の就業年齢(15歳~64歳)は7,517万9千人。女性は約半数とすると約3,760万人。就業率1%は、約37万人に相当します。2010年から就業率が10%上がったということは、毎年約37万人ずつ働く女性が増えているわけです。

子育て支援の財源はどこから?


上記山口氏があげた「出産・育児の機会コスト」を下げる要因のうちの①②については家庭や職場の問題で、国や行政が関わるのは③地域環境、 ④法的環境ということになります。③地域環境と④法的環境が整備されれば①②についても自然と改善されてきます。そのためにも、職の柔軟性と育児休業時等の所得補償、子どもの育児に対する手当など経済的な支援も必要になります。
それを可能にするためには、個人への補償・手当だけでなく企業への助成などの財源を確保しなければなりません。フランスやベルギーでは子どもを育てる上での経済的な負担はほとんど無いといった感じでした。
今回、比較表に税金についての項目を追加しました。可処分所得、所得税や社会保障負担率は、会社員以外も含めた平均です。OECDが今注目しているのはTax wedge(税のくさび)です。 これは雇用主が支払う給与などの総額から引かれる諸税と社会保障負担費の割合のことです。フランスやベルギーは50%前後にもなります。所得の半分は手取りで持って行かれているのです。それに加えて20%を越える高い付加価値税です。
付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の国際比較
上のグラフは、財務省のページに掲載されているデータですが、ここで注目するのは食品の軽減税率(ブルーの帯)です。Tax wedgeが高いフランスやベルギーも付加価値税は20%を越える高率ですが、食品は5.5%と6%。日本よりも低率です。
一方、Tax wedgeが日本並みのノルウェーや北欧諸国は、軽減税率の食品でも10%を越えています。ここに税の考え方の違いが出ているようです。

ベルギーのホテルの自室で食事
スーパーで購入した食材とワイン
海外取材ではその都市に1週間ほど滞在するので、可能であればキッチン付きのホテルを選ぶようにしています。取材相手の都合やスケジュール次第で食事の時間も不規則になります。ホテルに戻ってからも取材の整理やメールのチェック、返信などで時間に追われます。
欧米ではレストランの食事の量も多く毎回外食では疲れてしまうし食費もかかるので、半分は地元のスーパーなどで食材を調達しホテルで自炊して食事をします。その方が時間も有効に使えます。スーパーでの食品価格は感覚的にはフランスやベルギーでは日本とあまり変わりませんでした。しかし、ノルウェーでは何もかもが高く、お菓子でさえもなかなか手が出せませんでした。

日本でこれから財源を確保する方法としてTax wedgeを上げるか、付加価値税を上げるか、どちらかの選択が迫られますが、所得が増えない現状では答えは自ずと見えてくるのではないでしょうか。

子育て先進国のいいとこ取りをして、日本の出生率を上げる」 へつづく

過去の取材レポートリンク
子育て先進国と日本との違いを整理してみると 2017
子育て先進国と日本との違いを整理してみると(2014)

ベルギー取材レポート
その1 子育てに経済的な支援(手当)が手厚いベルギー
その2 週1回の半休で最高40カ月の育休取得が可能
その3 日本の育児支援は周回遅れ、EUでは量の確保から質の向上へ

パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性
その1 取材先をフランスにした理由
その2 出産の負担が経済的・体力的に小さいこと  
その3 男性が「産休」を取って育児・家事をする事の意味  
その4 保育園とベビーシッターの差が僅かに月1万円  
その5 都市インフラ的には子育てに優しいとは言えないパリなのに

ノルウェー取材レポート
家族が大事という共通認識と、その実行-ノルウェーに見るFamily Firstな働き方
保育園で0歳児の預かりが無いノルウェー

カナダ取材レポート
根本的に前提を変えるべき時に来た日本の子育て支援
Child Care Resource Centre に代わるのは日本では? 
Nobody's Perfect (ノーバディズ パーフェクト)発祥の国で、現状を聞いて来ました 
ブリティッシュ・コロンビア州の子育て支援を整理しました  

mikuの海外取材記事
経済的支援だけでなく柔軟な子育て休暇が充実のベルギー 
「男を2週間でパパにする」フランスの子育て - vol.50 
フィンランドの子育てに学ぼう! - vol.44 
子どもの権利を最優先する国 ノルウェーの子育て - vol.39 
それぞれの子どもを尊重する!カナダの子育て - vol.35 
子どもの個性を伸ばす!ニュージーランドの子育て - vol.30 
スウェーデンで浸透している「叩かない子育て」は、日本で実現できるか? - vol.24