Yahoo!ニュースにも記事が掲載されました。
日ハム役員、セクハラ発言=昨年10月、同席の社長辞任
(元記事は時事通信社のものでしたので、そちらをリンクします)
昨年10月、日本ハムの社長(当時)一行がドイツ出張のために羽田空港を利用し、搭乗前にラウンジに立ち寄りました。そこで一人の執行役員(当時)が航空会社の女性従業員に性的な内容を含む不適切な発言をしたと航空会社から問い合わせがあり、それを認めて執行役員だけでなく同席していた社長(当時)も辞任したというものです。その時、執行役員は酔っていたとされます。
どのような発言だったのかの記述もありますが、ここでは控えさせていただきます。
この記事を見て、すぐに日本ハムのウェブサイト(IRに関するリリース)を確認すると、1月29日付けで「代表取締役の異動(社長交代)、取締役および執行役員の異動に関するお知らせ」というリリースが配信されていました。
この一連の記事で驚く点は2つ。
1,ラウンジの利用顧客を特定して、航空会社から連絡が入ったこと
嫌な思いをしたからといって、ラウンジに居たお客様が誰だかを突き止めて追求しようとするに至ることはなかなかないはずです。
入り口では航空券などのチェックはするものの、ラウンジの中に入ってしまえば多くの利用者の一人にすぎません。その中で、名札を付けている訳でもなく、顔の知られた有名人でない限りは顧客を特定する事は普通は困難です。
2,発言だけで当事者と社長が引責辞任したこと
この手の発言は言った言わないもありますし、本人は酔っていて覚えていないというのが普通のパターンです。本人でさえなかなか認めませんし、責任を取ろうとはしません。同席していたというだけで社長も辞任するなんてこれまで聞いたことがありません。社長が自ら申し出たのか、それとも会社側が辞任勧告を出したのでしょうか。
顧客を特定して問い合わせてきたのは何処の航空会社か気になって、(昨年の10月の運行状況まで調べられなかったので)2月の羽田空港の運行スケジュールを元にちょっと調べてみました。
羽田からドイツへ飛ぶのはANAとルフトハンザ
羽田空港国際線のヨーロッパ便は、パリ、フランクフルト、ミュンヘン、ロンドンの4路線だけです(2018年2月現在)。ドイツに飛んでいるのはANAとルフトハンザです。どちらもスターアライアンス加盟の航空会社でコードシェア便も飛ばし、ラウンジは共用しています。一方、羽田空港国際線ターミナルでラウンジを運営する航空会社は、JALとANA、それにキャセイ航空の3社ですが、今回の現場はANAのラウンジということになります。
社長と執行役員という多忙な身。そんなに余裕を持って空港には来られないでしょう。ラウンジで過ごすのは出発前の限られた時間ですから、よほど酒に弱い人でないと酔うほどには飲めません。出発前に会食か宴席に顔を出す、あるいは食事などである程度お酒が入ってから空港に到着したと考えるのが妥当です。新潮の記事では、「前祝いで飲酒して」ともあります。であれば夜の出発便と考えられます。
夜の遅い時間にドイツへ出発するのは、午前0:55発のフランクフルト便が有ります。ミュンヘンは昼の早い時刻に出発の1便だけですので除外して良さそうです。
こうして見ると、フランクフルトへ飛び立つ前にANAのラウンジを利用したと考えるのが妥当でしょう。
問い合わせをした会社と受け取った会社
それぞれの対応の背景にあるもの
普通なら航空会社のラウンジ内はプライベートな空間なので、ファーストクラスのラウンジ(ANAの場合はSUITE LOUNGE)であっても利用者の中で個人を特定するのはなかなかに困難です。深夜で利用者が少なかったためか、それとも日本ハムの社長・役員と言うことで貼り付きのVIP対応で特定できたのでしょうか?
そもそも、「お客様は神様」という意識が強いかつての日本の企業では、お客様の非を追求するような行為は御法度でした。お客様からの無茶な要望や理不尽な要求であっても、それに応えるべきだという空気がありました。過去には航空会社に勤める友人から「上級会員ほど無理なことを言うし、態度が悪い」という話を聞いたこともあります。昭和の映画に出てくる成金社長は、だいたいそんな感じでしたね。今回のような事が起きても、お客様の顔を立ててそのままやり過ごしていたでしょう。
しかし、時代は変わっています。今、人手不足も手伝って、企業はお客様と同じく従業員のことも大切にします。お客様の言うことだったら何でも聴くという時代ではないのです。
個人にではなく会社に問い合わせ
今回は利用者個人にではなく、所属する会社(予約と支払いは会社で行ったのでしょう)に問い合わせをしています。 会社対会社での申し入れです。これまでにもセクハラ発言に限らず、同社役員・従業員による不適切な言動があったのでは?と考えてしまいます。
10月下旬に航空会社からの問い合わせで社内調査をし、事実確認をして航空会社へは謝罪。セクハラ発言をした執行役員と社長(いずれも当時)から辞意を申し出、臨時取締役会で役員交代が決定したということです。
一連の記事ではセクハラ発言の場に居たことを辞任理由(あるいは理由の一つ)に挙げています。公式には辞任の理由は明らかにされていませんが、セクハラ発言が有った点については広報IR部でも認める報道があります。
これまで、セクハラやパワハラが問題になったのは恒常的に行われている様な場合です。今回のように特定の個人による一度(ひょっとすると何度も?)の、しかも会社の外で起こしたことが会社全体の問題として取り上げられることは極めて希と言えます。
しかし、日本ハムは過去にも食肉偽装などで消費者の信用を失い、コンプライアンスの徹底を図ってきたはずです。再びブランドに傷を付けることはできないと、社内への改めての意識改革を求めての社長辞任となったのかもしれません。
日本ハムに限らず、今やハラスメントは社内外を問わず、黙認したり看過できない時代になったということです。
「#MeToo」の流れは、海の向こうの話ではなく、すでに日本でも静かに広がり定着しつつあります。