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OECD加盟国の出生率予測 | |
2012年
ニュージーランド、2013年
カナダ ブリティッシュ・コロンビア州、そして今年2014年は
ノルウェーへと、3年連続で子育て先進国を取材してきました。いずれもOECDに加盟する先進国で、合計特殊出生率は日本よりも高く、ノルウェーとニュージーランドは2に迫っています。世界母親指標2012(セーブザチルドレン調べ)の評価では、1位ノルウェー、2位アイスランド、3位スウェーデン、4位ニュージーランドとなっています。
カナダの出生率は1.7に届きませんが、第三次ベビーブームを迎えて子供の数が増えています。昨年カナダ取材を終えて、「
根本的に前提を変えるべき時に来た日本の子育て支援」としてこのブログで一度整理しました。
今年、さらにノルウェー取材を実施し、社会的・歴史的な背景と共に日本と比較しながら、子育て先進国の特徴を整理してみました。
この表の女性の就業率はOECDのデータですが、15歳~64歳の数値です。25歳~を取るとノルウェーは82%程度の就業率となりますが、日本はそれでも70%に届きません。正規雇用だけでなく、非正規・パートタイムまで含めた就業率です。
もちろん、女性の就業率が高いから良いというわけでもありません。それぞれの国の歴史や背景が有り、税制も違います。正規雇用と非正規・パートタイムの比率も違っています。
暮らしやすさについては、所得と物価を分けて語ることはできません。ニュージーランドを訪れた時は円高が進んでいましたので、総じて日本よりも物価は安く感じました。対してカナダはだいたい日本の1,5倍、円安が一気に進んだ今年のノルウェー取材ではだいたい3倍ほどでした。
このような背景があるという前提の元でも、参考にすべき・見習うべきと思う点をいくつか列挙してみます。
人は皆平等であるという前提
日本でも法の下での平等を謳い、自分達では平等意識があると思っています。しかし、北欧やカナダでいう平等とは根本的に違います。外国人と言うだけで色眼鏡で見たり、肌の色や髪の色がが違うからといじめにあう子どももいます。彼の国と比べると、日本が「平等」に対して高い意識を持つ国とは恥ずかしくてとても言えません。先住民や移民、難民と区別しないばかりか、先住民に敬意を払います。間違っても「アイヌはいない」なんて言うことはありえません。
男女平等はもちろん、国籍や民族、肌の色、育った環境……そのようなことで差別するとがあってはなりません。移民や難民を多く受け入れ、幼い頃より平等に関する教育を受けて人を色眼鏡で見るようなことはありません。1人の人間として向き合います。ノルウェーで子育てを所管する省庁はMinistry of Children, Equality and Social Inclusion=こども・平等・社会省 です。省の名前に「平等」が入っているくらいです。取材をノルウェー大使館へ打診した際に、事前資料として送られてきた物には、
Equality 2014 - the Norwegian Government’s gender equality action plan もあり、いかに「平等」について力を注いでいるかがうかがえます。
対して地続きの国境が無い日本では、大陸の民族との争いも少なく、天皇制のもと身分や階級が固定化しました。士農工商を始めとする身分制度や男尊女卑の考え方、あるいは「神国日本」という特別な民族意識など、様々な場面で身分や階級を意識しながら生活してきました。加えて、村や(戦国~江戸時代の)国・藩単位での集団責任体制(五人組や村八分)に始まるグループや組織での連帯責任の意識が染みついているのでしょうか、グループの構成員に迷惑をかけない・かけてはいけないという文化。それだけに自分が所属するグループへの帰属意識が強く、他者をも格付けし仲間以外を排除し差別しようとします。そのような排他的な文化がいじめが無くならない原因の一つなのかもしれません。
政治や組織内での派閥やグループだけでなく、都会のママ友間でも格付けして、階級差別的な関係性ができあがっていると言うくらいですから。 母親同士がいじめをしていたら、子どももまねしてしまいます。
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Poverty rates for children and the total population, 2010 (OECD) |
日本の
子供の貧困率はOECD平均を上まわっています。ニュージーランド・カナダも同様に平均を上まわっていますが、ノルウェーは極めて低い貧困率になっています。北欧の国々は総じて貧困率も低くなっています。
今回のノルウェー取材で印象的だったのは、子どもを社会全体で受け止めようとしているところ。日本人の母親を集めた座談会でも「妊婦やベビーカーを押した母親が地下鉄などに乗ってくると、お年寄りまで立って席を譲ろうとしてくれるので恐縮してしまう」と言っていました。
社会保障(保険)の予算は、給与所得者は所得の7.8%、個人事業主は11%を支出(徴収)しています。年金所得者も4.7%負担しています。個人個人が明確に意識して全体を支えています。雇用主(企業)の負担は地域によってその税率は違い、利益の0~40%です。国家予算総額の35.4%(2012年)と基金の運用益などを加えて全体の社会福祉予算となります。
社会福祉政策で子どもに関わる投資は
産休制度、
保育園政策、
職場での柔軟性、
子どもの医療費の4つになります。
今でこそ女性の社会進出においては世界TOPレベルではありますが、1970年代の女性の就業率は50%にすぎなかったといいます。そして現在、子どもを持つ母親の82%はなんらかの職に就いています。子どもを持つ女性でも働きやすい制度を整備することが重要と考えて取り組んだ結果といいます。
育児休暇取得は当然であり、
育休後は元の職場・ポジションが保証されている
取材をした3つの国で共通していたのは、
16時を過ぎると帰宅のラッシュが始まること。定時の終業時刻は17時が一般的なのですが、早く仕事を始めて早く帰るのが普通です。残業するよりも早出、会議は早朝で夕方のプライベートな時間をお互いに大切にしていました。
カナダやノルウェーでは、妊娠・出産・育児がキャリアの障がいにはなりません。出産・育児に関わる事は権利であり社会全体で支えサポートする対象であるという認識。育休後は、元の部署・元のポジション・元の給与で復職することが保証されているから、安心して1年間の育児休暇を取得できます。1年間は育児休暇ということが社会的に共通認識なので、組織運営も社会の仕組みも全てその前提で組み立てられています。
ノルウェーでは、出産前3週間も含め育休期間49週を選ぶと期間中は給与の100%が支給され、59週を選択すると80%が支給されます。そのうえ産後の育休期間は父親と分けて取らなければなりません(クオータ制)。2014年は父親が10週以上取らなければならないのです(2003年は4週だったのが、2012年に12週、2013年は14週、政権交代などで毎年改訂)。1993年は2~3%しかなかった男性の育休取得率が、現在では約90%の取得率になっています。
今回インタビューさせていただいた漁業省のアームンド副大臣は、「
要職にあっても、育休でも有休でも取るべきであり、トップが不在でも組織に停滞は有り得ない」と明確におっしゃいました。
一方で、政府は育児をサポートするのであって、育児そのものを代替するサービスを提供しているわけではありません。
カナダはこどもを預かる保育サービスも充実していますが、保育園での1歳児の保育料は月額10万円以上です。ニュージーランド・ノルウェーは保育園ではなく就学前幼児教育の場という位置づけで、ノルウェーでは一律にbarnehager (英語ではKindergarten)です。1年間は育児休暇が取れるので、0歳児を預かる公立の保育園はありません。社会全体が出産後1年間は育児休暇を取得する前提で動いていると言えます。
因みに、barnehager (Kindergarten)での昼食を用意するのは親の役目で、基本的に弁当を持参です。
日本型の子育て支援は?
取材した子育て先進国では、どの国も子育てに関する政策を担当し、予算措置をする省庁は集約されていました。ニュージーランドは「教育」と言う視点から、カナダは「家庭」のあり方を働く母親の視点から、ノルウェーは「子ども」を真ん中に置いて母親と父親の役割と負担をを平等に考え、それぞれの国の政策や仕組みが整備されているようです。
日本では就学前教育という位置づけで文部科学相が管轄する幼稚園があり、(主に母)親の就業などで保育に欠ける子どもを預かる場として厚生労働省が管轄する保育園があります。来年スタートする子ども子育て新システムについても、認定こども園の助成額を巡って移行取り下げを申し出る園が出ていると言います。そもそも、文部科学相・厚生労働省にまたがったままの制度設計に無理があるとも言えます。
消費税増税で財源確保も必用でしょうが、日本の未来の有るべき姿(働き方・子どもの居場所)を真剣に議論し、その実現には省庁再編をも排除せずに今一度検討して欲しいと切に願います。
ノルウェーでさえも、20年前は父親の育休取得率は今の日本とほとんど変わらなかったのです。
※追記
2017年、フランス取材後に再整理をしましたので合わせてお読みいただければ幸いです。
子育て先進国と日本との違いを整理してみると 2017
ノルウェーの子育て
ニュージーランドの子育て
カナダBC州の子育て
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