2013年10月28日月曜日

みずほ頭取は残留、阪急阪神ホテルズ社長は辞任   -この違いは?

今日は注目されていた2つの不祥事のTopの責任の取り方が、図らずも同じ日に発表されました。

みずほ銀行は、暴力団員らへの融資に関して第三者委員会が調査報告書を公表したのを受け、金融庁への業務改善計画を提出すると共に社内処分を発表しました。それによると、塚本隆史会長が来月1日付けで銀行の会長を辞任し、持ち株会社、「みずほフィナンシャルグループ」の会長職にはとどまるものの役員報酬を6か月間ゼロに。法令遵守を担当してきた常務と執行役員の2人も来月1日付けで辞任、さらに関係する役員を減俸の処分とするなど、銀行と持ち株会社、合わせて42人の役員を減俸などの処分としました。佐藤頭取は役員報酬を6か月間ゼロとしますが、辞任はせずそのまま頭取の職に留まります。

一方、料理メニューの不適切表示で世間を賑わせている阪急阪神ホテルグループ。午後8時から緊急会見を開き、出崎社長の辞任を発表しました。

この2つの不祥事で、どちらのトップの責任が重いのかを言及するのは難しいところです。どちらも世間を騒がし、生活者の期待と信頼を裏切ったことに関しては変わりありません。しかし、一方は辞任し、一方は留任。さて、この違いはどうしてでしょう?

違いは、ステークホルダーのスイッチングコストの差ではないかと考えます。
ホテルやレストランは、他に選択肢が無いなど余程の環境条件や個別の繋がりがある顧客でない限り、都市圏ではいくらでも代わりは見つかります。しかし銀行は代わりの銀行はあるものの、給与振り込みや公共料金、カードの引き落としなど、口座にはさまざまな縛りができてしまっています。メインバンクになっていれば、口座を変えることはなかなかに大変なことです。借り入れをしている企業にとっても、今回の事があるから借入先を変えますともいきません。
ドラマ半沢直樹でも描かれていましたが、恐らくメガバンクの組織内のパワーゲームは熾烈なのでしょう。しかし、それは口座を持つ個人顧客には関係の無いこと。ほとんどの個人顧客は、銀行にとっては資金提供者にしか過ぎません。いかに囲い込むか、運用資金を確保できるかは預金口座の獲得にかかってきます。普通預金に定期預金、様々なポイントプログラムで囲い込まれた口座を変更するには膨大なパワー、スイッチングコストが必要です。みずほ銀行としては、このような囲い込みをした個人顧客の口座は離れないだろうとの読みがあるのでしょう。
社内処分が世間的に見て甘いと言われようとも、業績には影響は無いとの判断があるのかもしれません。 結局は自己保身のための仕組みを作り上げていたといったら言い過ぎでしょうか?

これはみずほ銀行に限ったことではないでしょう。銀行に限らず鉄道や電力、ガスなどの生活インフラを担う企業の経営陣には、高いスイッチングコストを背景に少なからずこのような意識があるのではないかと思える記者会見をこれまでにも多く目にしています。

中小・中堅企業においても、ワンマン経営の企業では経営者のおごりが同じような過ちを犯しかねません。その時は、インフラ企業とは違いスイッチングコストが小さな業種・企業は、あっという間に顧客離れを起こして窮地に陥ることになります。

阪急阪神ホールディングス、みずほ銀行。どちらの会見でも、顧客・消費者への視点・思いが感じられませんでした。どちらも組織に混乱を招き、親会社、行政に迷惑をかけたから反省して処分をしましたという内容。反面教師としてのお手本としてください。

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ザ・リッツ・カールトン、おまえもか!-料理メニュー不適切表示

「ザ・リッツ・カールトン、おまえもか」

思わずそう叫びたくなる名門ホテルでの料理メニュー不適切表示。
ザ・リッツ・カールトンといえば、パリのホテルリッツを起源とする、名門中の名門ホテル(現在のホテルリッツと、ザ・リッツ・カールトンとは経営上の関係はありません)。
従業員は常に「クレド」を携帯し、クレドの精神を忠実に守るよう教育されています。ザ・リッツ・カールトンのクレド経営は、コンプライアンス教育やホテル・レストランなどサービス業界の研修で、題材としてよく取り上げられます。「リッツ・カールトン20の秘密―一枚のカード(クレド)に込められた成功法則」など、リッツ・カールトンを題材にしたビジネス書も多く出版されています。 

そのザ・リッツ・カールトンは、日本には今回不適切表示を行った大阪を皮切りに、東京、沖縄に進出しています。ただそれぞれの経営母体は別で、「ザ・リッツ・カールトン大阪」は阪急阪神ホテルズと同じ阪急阪神ホールディングス傘下の阪神ホテルシステムズが経営しています。六本木ミッドタウンのザ・リッツ・カールトン東京、リゾートホテルのザ・リッツ・カールトン沖縄は、経営・運営共にザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニーL.L.Cが行っています。

ザ・リッツ・カールトン大阪は謝罪会見を10月25日に実施。7月には不適切標記が判明していたにも関わらず、公表していませんでした。それが、阪 急阪神ホテルズの発表(10月22日)からされに3日遅れて25日の発表。これは、前日の阪急阪神ホテルズ出崎社長の謝罪会見を報道するマスコミや社会の 激しい批判を見たからでしょうか。
同じ阪急阪神ホールディングス傘下とはいえ、別会社の別ブランドホテルということで、親会社もまさか同じ事をしているとは考えもしなかったのかもしれません。あるいは、出崎社長の謝罪会見報道を見て、ホールディングスから発表するよう指示が出たのかもしれません。
い ずれにしても、このタイミングでの謝罪会見に、マスコミも生活者も阪急阪神ホールディングス傘下と知って「またか」であり、「やっぱり」と思わざるをえな いでしょう。阪急阪神ホールディングスとしての広報体制、クライシスマネジメント体制にも疑問があることが露呈しました。これが、本業の鉄道事業だったと しても同じような対応や会見で済ませるのでしょうか?当然株価にも影響が出ています。最初の謝罪会見をした10月22日の翌日には大幅に下落(日経平均のピークになっている縦線が10月23日)し、その後も日経平均の下落幅以上に大きく下げ続けています。


日経平均の1ヶ月の株価変動
阪急阪神ホテルグループの1ヶ月の株価
10月22日をピークに下落が続いた
(Yahooファイナンスのスマホの画面キャプチャ)




これから想定できるのは、7年前の相次ぐ食品偽装が明るみに出たときと同じように、全国のホテルやレストランで「社内調査」が実施され、相次いで(どさくさに紛れて)公表していくという事になりはしないか、ということです。もしそうなら、一つの節目(公表のピーク)は3連休直前の11月1日。新聞の社会面の「社告」が増えるかも知れません。
 
ヤマト運輸のクール便仕分けが、社内規定を外れて常温で行われていたことが明るみに出ましたが、これも内部告発によるものでした。実際に偽装を行っているホテルやレストランでは、ネットやマスコミに内部告発が相次ぐ可能性もあります。内部告発で明るみに出る前に自ら公表し、謝罪会見をしようと準備にはいっているところもあるかも知れません。
場合によっては、ホテルやレストラン以外でも同様の内部告発が相次ぐ可能性があります。

公表するしないは別として、自社のコンプライアンス体制や仕事への取組姿勢について、今一度検証・見直しすることをオススメいたします。

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2013年10月25日金曜日

阪急阪神ホテルズ 出崎社長遅すぎる会見 偽装を否定し誤表示と強調


10月22日に公表して、謝罪会見をした阪急阪神ホテルズ。この日の会見は、営業企画部長と総務人事部長が謝罪と説明を行いました。それから2日後の24日、出崎社長が改めて謝罪会見を行いました。

6月の他社ホテルの不祥事の後だし、22日の会見は(形上は)自主的な発表だから社長が出るほどでもないと高をくくっていたのかも知れません。 しかし、マスコミやお客様の反応に驚いて、改めて社長が謝罪しなければならないという判断(あるいは親会社の阪急グループや株主からの要求)に至ったのでしょうか。なんともお粗末な、よくある2段構えの会見となってしまいました。

このような謝罪会見を2回実施する、しかも2度目に社長(あるいは会長)が出てくる会見は、取材するマスコミにとっても報道を受け取る生活者にとっても印象が良いはずがありません。2度目に社長が出てきたことで 、事態が大きく変わるような発表があればまだしも、です。

2度目に社長が登場しての謝罪会見を見て、
「どうして最初から社長が出てこなかったんだ?」
と誰もが思うでしょう。

取材する側も、最初の会見から2日経ち、各社様々な周辺取材をし独自の報道をした後です。既に多くの取材を重ねて事実確認も状況確認も、消費者の反応も掴んでいます。そこに社長の会見ですから、「新たな何か」を期待して会見に臨んでいます。しかし、発表された内容は、22日から24日午前9時までのお客様からの返金要請に 513件、1022万円分応じたことと、社内での処分内容に留まりました。

10月7日消費者庁への届け出をし、そこから十分すぎるほどの時間を取っての謝罪会見でありながら社長は姿を見せず、2日後に再会見。これでは社長は逃げている、現場に責任を押しつけているとみられてしまいます。どんなに言い訳をしても「会社ぐるみでやってたことでしょう?」とますます思われてしまいます。この会見が、阪急阪神ホテルズという名門ブランドを大きく毀損したと言わざるを得ません。

時間経過と発表・会見の様子を見ていると、先のカネボウ化粧品の美白化粧品自主回収とも重なってしまいます。
こんどは阪急阪神ホールディングスがなんらかの対応と発表に迫られるのでしょうか?

※原稿を書き始めたときには、FNNnewsCH のYouTube動画が貼り付けられたのですが、書き終わって公開したときには、公開用のタグが削除されていました。記者会見はFNNnewsCH で見ることができますが、しばらくすると削除されるでしょう。


2013年10月22日火曜日

阪急阪神ホテルズのメニュー不適切表示

今年に入り、大手ホテルで提供されていた料理メニューで、表示と使用されていた食材が違っていたという不祥事が相次いでいます。東京ディズニーランドホテル、軽井沢プリンスホテルが6月に発覚していましたが、本日(10月22日)阪急阪神ホテルズが直営8ホテルなどにある計23カ所のレストランと宴会場で提供する料理で、メニューの表示と異なる食材を使っていたと発表しました。
消費者庁は景品表示法(優良誤認)違反の疑いで調査、違法と判断した場合、措置命令などの行政処分を出すとしています。


ホームページに掲載されたお詫びとお知らせによると、2006年まで遡って不適切表示を公開しています。そして直近は今年9月30日です。
上記2ホテルの不適切表示を伝えるニュースのページは、すでに削除され各ホテルのお詫びページも削除されています。しかし、ブログやまとめサイトでその詳細は今でも確認することができます。
そこで、東京ディズニーランドホテルの不適切表示の内容をNAVERまとめで見てみると、今回阪急阪神ホテルズが公表した内容と良く似ていることがわかります。

朝日新聞などによると、冒頭の東京ディズニーランドホテルや軽井沢プリンスホテルの不適切表示発覚を受けて社内調査をした結果、判明したので公表したということです。しかし、誰もが違和感を感じているのではないでしょうか。

まず、食品偽装や不適切表示といえば、2007年にミートホープや船場吉兆、比内地鶏などの偽装が立て続けに発覚し、多くの企業が過敏に反応して連日新聞には社告が掲載される事態になりました。そのくらい世の中が過敏に反応していた時期から、変わること無く続いていることになります。
また、ミートホープ事件の時に、違反の罪に問われる可能性があるとされた法律は以下のような物が上げられていました。

①不正競争防止法
②不当景品類及び不当表示防止法景品表示法)
③食品衛生法
④農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
⑤詐欺罪

その時に社内調査はしなかったのでしょうか?ルームサービスのジュースまでシェフがチェックするかどうかはわかりませんが、少なくともレストランや宴会の料理メニューに関しては、シェフ(料理長)の確認の元に使用食材も決定されているはずです。それが途中で変えられていたら、シェフが気がつかないはずはないでしょう。鮮魚と解凍の魚の違いがわからないというのだったらそれもまた問題ですし、わざわざ解凍した魚を購入するはずもありません。冷凍~解凍も調理場で行われていたと考えるのが普通です。しかも、上記2ホテルの不適切報道がされた後も続いている、あるいはその時期から発生しているものもあります。確信犯と言わざるを得ません。

厨房で(あるいは会社全体で悪いこととわかっていながら)当たり前のこととして行われていたことを、突然公表しなければならない事態に陥ったのです。しかも、ごく最近。普通に考えれば内部告発か、事情を知る人間による圧力がかかったのではないかということです。退職者やお取引先かもしれません。ホテル業界では、業界内での転職も多いですし……

今回の立て続けに発表されたホテルの不適切表示から、想像しながら学ぶべき事は、

1,法律や表示に関する用語、調理法などの社内教育と周知
2,法令遵守の意識の徹底(特に経営幹部・管理職)
3,従業員、お取引先、その家族を含む全てのステークホルダーとの良好な関係作り


が日常から必要だと言うことです。
一度公になったことは、ホームページやニュースサイトから削除されても、どこかで引用・転載、そして記録され消えることはないということを改めて心に刻むことです。

それでも不祥事や不適切な事態が発生した際、最初の対応が重要になるのです。  

2013年10月20日日曜日

ブリティッシュ・コロンビア州の子育て支援

10月9日、BC州政府Ministry of Child and Family Development児童家庭省)との取材ミーティングを持つことができました。その時の概要を記します。
Executive Director Joan Easton氏(左)
他、今回の取材に丁寧に対応いただいた

BC州では、6歳以下の小さな子どもとその家族の支援を担当するMinistry of Child and Family Development児童家庭省)を中心に日本で厚生労働省・文部科学省に相当する3つの省が相互に連携を取りながら子育て家族の支援を進めています。child care に対しての3つの省の役割分担は以下のとおりです。


  • Ministry of Children and Family Development (MCFD) is responsible for child care programs and services that provide funding and support to children, families and child care operators
  • Ministry of Health (MoH) is responsible for the licensing, monitoring and inspection of child care facilities
  • Ministry of Education (MoE) is responsible for Kindergarten.

   先のこのブログでも記したように、 BC州では女性が働きながら子育てするという前提で子育て支援策が考えられています。

まず、基礎的な支援は、6歳以下の子どもが居る家庭に対して、カナダ政府から100ドルとBC州から55ドル※/月(小切手)が支給されます。 
※取材当日のレートは 1カナダドル≑95円 実際の両替レートでは約100円

child careのタイプとライセンスの対応表
今回の取材に対して、MCFDで用意していただいた資料より


2020年までに子どもの数が1割も増える予想のBC州では、それに対応するために保育施設の拡充が急務となっています。これから3年間で、2000カ所の認可保育施設の開設(ライセンスの付与)を目指しています。日本のように画一化した認可保育園ではなく、大型の保育園から個人宅での預かり(child day care)、依頼者の家で子どもの世話をするナニーなど、様々なライセンスを設定しています。また、13歳以上になると、一定のプログラムを終了すれば子どもの世話をすることができるというのが日本には無い制度。中学生にもなれば家の手伝いは当たり前。昔は日本でもそうだったし、今でも手伝いをしている子は多く居ます。そのお手伝いを制度として認め、保育プログラムに組み入れるとは目から鱗です。2人以下の子どもであればライセンスは必要無く、この13歳以上の学生が、お小遣い稼ぎに子どもの面倒をみることもできるのです。施設の充実度や規模、自分の価値観と懐具合などを考えながら、多様な選択肢から子どもの預け先を選ぶことができます。
child day care のライセンス
見える所に掲示してある

年内にBC Early Childhood Development Centre(幼児発育センター)が発足します。組織でもありますが、施設も展開していきます。
マッチングに関しては、Child Care Resource Centre などで電話や面談で紹介することもできるし、WEBサイトで探すこともできるよう、整備をすすめています。もちろん、Early Childhood Development Centreもその拠点になるはずです。
ライセンスは数年ごとに更新が必要で、個人に与えられるライセンスの場合は数日間の更新プログラムを受講しないと更新できません。

日本と大きく異なっていると感じたのは、NPOや慈善団体、任意団体やコミュニティの活動です。 NOBODY'S PERFECT のプログラムは広く受け入れられ、Facebook,Twitterなどのソーシャルメディアやスーパーの掲示板、検診の際の案内などで情報を得て、様々なプログラムに参加しています。 

カナダは、日本のようにジェンダーやダイバーシティに関する議論は既に過去の物となっていました。世界中からの移民を受け入れ、肌の色も言葉も多様であることが当たり前で、学校のクラスでは障がいのある子も同じように区別無く 一緒に学んでいるそうです。
私たちが尋ねたsouthvancouverfamilyplaceでは、4人のスタッフが20カ国語に対応していました。身の回りは あらゆる事が多様であるということからスタートすること。それがカナダの暮らしであり、子育て支援もその多様性を前提に多様な仕組みと選択肢を用意することが自然なことだったのでしょう。

日本で、多様な選択肢を用意できないのは行政のせいなのでしょうか、それともサービスを受ける側の精神的キャパシティ の小ささからなのでしょうか?

Nobody's Perfect (ノーバディズ パーフェクト)発祥の国で、現状を聞いて来ました
Child Care Resource Centre に代わるのは日本では?

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2013年10月17日木曜日

根本的に前提を変えるべき時に来た日本の子育て支援

昨年のニュージーランドに続き、今年はNobody's perfect 発祥の地カナダのブリティッシュ・コロンビア州に子育ての現場を取材に行って来ました。そこで改めて感じたこと。それは、子育て支援の前提が日本とは根本的に違っているということでした。
詳しくはmiku35号の記事に譲るとして、簡単に整理してみました。
美しいBC州都ビクトリアの州議会議事堂

●女性が外で働くということ

日本で女性が外で働く、自立して男性と互して働くことが認識されるようになったのは、1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから。それまでは、ほとんどの企業では女性は男性のサポートとしての仕事しかさせてもらえていませんでした。雇均法施行直後にはバブル景気に突入し、好況を背景に一気に女性の社会進出が進みました。

日本の法律の多くは、その基礎が明治時代に制定されています。元武士と公家が作った明治政府のもとで作られた法律です。家父長制度が存在し、男性が家計・家族を支える前提の仕組みの元で様々な法律や社会秩序が作られました。そのため日本において女性の働き方を議論する際、男性が外に出て女性は家を守るということを基本として語られてきました。

30年ほど前はまだ「お嬢様学校」が存在し、卒業生の大半の職業は「家事手伝い」という時代もあったし、花嫁学校もありました(外交官や商社マンの婦人になる女性向けコースなど)。
しかし大学進学率や卒業生の就職率などの推移を見ると、もはや男女の差はほとんどなくなり、平成20年のデータでは大卒女子の就職率は男性を上まわってさえいます。

「平成20年版 働く女性の実情」-厚生労働省発表「大卒女性の働き方」から
最新版の統計は「平成22年版 働く女性の実情」

一方で、農家や商家など家業を持つ家では、女性も男性と同じ職場で働くのが当たり前です。
働き方を議論する余地などありません。最初から女性も労働力として組み入れられています。外ではなく中で働いているのですから、仕事と家事や子育ては多くは同時並行的に進んでいます。

ところで、日本で女性に参政権が与えられたのは戦後のこと。意外にこのことを忘れてしまっています。因みに、ニュージーランドやカナダでは、1920年までには女性の被選挙権も認められた普通選挙が実施されていますが、wikipediaによると子育て先進国として名前が挙がる国々は、ほとんどが1920年までに男女平等の参政権を獲得しています。日本でも大正デモクラシーが盛んだった頃ですが、女性の参政権を獲得することはできませんでした。

こうしてみると、女性の参政権獲得の遅れの分だけ女性の社会進出が遅れ、結果として子育て支援策や子育て環境整備の遅れに繋がっていまっているのかもしれません。

●子どもを一人にしないという前提

親にとって等しく求められるのは、子どもの安全確保。国や貧富の差は関係ありません。ニュージーランドでもカナダでも、そしてもちろんイギリスもですが、13歳未満の子どもには常に大人が付いていなければなりません。子どもだけにすることは法律で禁じられています。

家で留守番させただけで通報され、親は逮捕されると言います。幼稚園や保育園は言うまでもなく、小学校の送り迎えも親が一緒でなければなりません。今回取材した家族でも、自家用車を持たないので、バスを乗り継いで毎日送り迎えをしているということでした。

子どもは親に守られながら育てるという前提で社会全体が動いています。学校の送り迎えは常に母親だけというわけにはいかないので、父親の早退や近所の家族同士で迎えに行ったり預かったりが普通に行われています。小学校が終わる(幼稚園や保育園も)3時頃、お迎えの車で渋滞するということも日常です。会社や職場、そして社会全体もその前提で動いていると言うことです。

日本は、古くから集団責任体制が発達し結束も強かったために、コミュニティ内では相互セキュリティの監視の目が行き届いていました。コミュニティ内では子ども達も親と離れて自由に移動し、親でなくとも誰かが見守っていました。戦前まではコミュニティのこのようなセキュリティも機能していました。しかし、高度経済成長と共にコミュニティは徐々に崩れていきます。鍵っ子という言葉も生まれました。だからといって、子どもの安全のために子どもだけにしてはいけないという法律を定めるなどということは、日本では思いも付かない発想です。今でも日本は安全な国ではありますが、子どもにとっての安全という意味では戦前のそれとはその背景が全く変わり、決して安全とは言い切れなくなっています。

●育休明けの地位と給与を法律で保証するカナダ

カナダ(BC州)では、出産のために育休を取ることは当たりまえです。1年間の育児休暇を夫婦でシェアすることができ、母親が30週取って父親が20週取るということも可能です。そし て、育児休暇を取っても、元の職場で元の仕事に同じ給与条件で復帰することができます。これは法律で保証されているので、安心して育休も取得できるし出産 にも臨めるのです。
上記、「平成22年版 働く女性の実情」でも、M字型カーブの解消が課題と指摘されてはいるものの、カナダ(BC州)のように法律で職場復帰を保証するというところまでは言及されていません。


●保育園は安くないけれど狭き門

個人宅のchild day care
今回ヴァンクーバ-の取材で驚いたことの一つに、物価の高さがあります。食料品や日曜品の高さ(およそ日本の1.5倍程度。卵1ダースが400円~600円)もさることながら、保育園の料金は非常に高く、乳児の1ヶ月の保育料は10万円以上。高いところは17~18万円ですが、それでも狭き門で、人によっては妊娠したら入園の申し込みをするというほどでした。保育園以外にも、免許を持った保育士が個人宅で子どもを預かる child day care や、2人までなら免許など無くても個人で預かれる制度もあり、求めるサービスのレベルや懐具合で選ぶこともできます。
そんなに高い保育料を負担してまでどうして?という疑問に、みな口々に「キャリアを繋ぐためには、負担は大きいけれどそのくらいは当たり前」と答えます。育休で身分が保証されてるのは1年ですが、その後職場に戻るためにはやはり子どもを預かってもらわなければなりません。2歳になると保育料も下がり預けやすくなるので、それまでは給料の全額をつぎ込んででも職場に戻るのだと言います。自分の仕事に対するこだわりやキャリアに対する考え方も明確です。

職場に戻れば、社会全体が子育てをサポートする仕組みになっているので気兼ねすること無く働けるし、もしもの早退にも寛容です。そもそも、3時や4時に仕事を終えて退社するのが普通なのですから。
ニュージーランドでは毎日4時頃には帰宅の渋滞が始まり、バンクーバーでは感謝祭の3連休の前日、3時過ぎに帰宅のための大渋滞を体験しました。3連休に出かける準備をするためだそうです。
いずれも日本では考えられません。

●幼稚園は教育機関、保育園は?

日本では、長い間子どもを育てるのは母親の役割とされていました。
そのため、保育園は保育に欠ける家庭・子どもをサポートするための福祉施設という考え方です。母親が働きに行かざるを得ない家庭で、子どもを家に残せないから保育園に預けるという、ある意味「後ろめたさを感じつつ子どもを預けなさい」と言わんばかりの位置づけと言えます。
対して、ニュージーランドは幼児期においては教育を担う場と位置づけられ、カナダにおいては(特に女性の)就労をサポートするためにありました。

一 方、義務教育を受ける前準備としての幼児教育の場は幼稚園です。カナダにおいても同様で、3歳からは基本的にプリスクール(幼稚園)なのですが、基本の保育時間は3時までですので小学校の学童保育とかわりません。

まるで個人宅のような佇まいの保育園
ニュージーランドは、幼稚園も保育園も教育の場と位置づけられ、子ども達が通う先を固定する必 要もありません。保育園、幼稚園だけでなくプレイグループなども組み合わせて選べるので、月~水曜日は幼稚園で、木・金曜日は保育園でも良いのです。バウ チャー制で親の負担は基本的には無いのですが、保育園・幼稚園にとっては競争が激しくより良いサービスの提供が求められます。

ニュージーランドの子育て


●就労サポートと子育て支援を分けて考える

ニュージーランドは、子どもの健やかは成長をサポートするために様々な仕組みが整備されていました。カナダBC州では、女性が働いていることが前提で、妊娠・出産がその妨げにならない社会があり、子育て支援の仕組みができあがっているという印象でした。

日本では、明治時代に作られた法律や仕組みを引きずりながら、世の中の変化を先取りすることも対応することもできないままに、ズルズルと時間が過ぎているようです。
カナダのように、出産・育児が働く事の妨げにならない社会作りがまず第一。現在の待機児童の解消の目的はこちらです。子育て支援ではなく、女性の就労支援です。
そして子育て支援は、ワクチン接種の無料化(カナダBC州ではインフルエンザも含め基本無料)や子育て手当、教育関連費の政府負担の割合を増すなど、子どもを持つことができるだけ家計の負担にならないように支援することではないでしょうか。

※ニュージーランドは合計特殊出生率が2.1を越えています。カナダBC州は、これから2020年までに、子どもの数が1割増えることが予想され、6歳までの子どものサポートに特化した「児童家庭省」という独立した省を設置。2012年にはTHE Families agenda For British Columbiaを発表、2013年にはBC Early Childhood Development Centreを設立しました。これから増える子どもの受け入れ先の拡大と情報提供・マッチングサポートに取り組むということでした。

参考データ 合計特出生率ランキング

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2013年10月2日水曜日

半沢直樹に重ねる、組織におけるパワハラ・不祥事

最終回、42%を越える視聴率を獲得して放映を終了した、TBS系列のドラマ「半沢直樹」。
私も初回から最終回まで、欠かさず見てました。初回放送時の視聴率は19%台だったのに、回を増すごとに視聴率は上がり続け、世間でも「倍返し」の台詞が話題になりました。初回は見ていなかった家族も、いつの間にか日曜夜9時にはテレビの前に集合するようになり、家族のコミュニケーションの題材にもなっていました。

世代を問わず(さすがに子どもには難しかったかも知れませんし、子どもは寝る時間です)これだけ高視聴率を獲得した理由は、メディアや評論家が様々な分析をしているのでここでは割愛させていただきますが、かつての時代劇や歌舞伎に通じるものがあるようです。

さて、この半沢直樹のストーリーの重要なポイントは、パワハラや不正/不祥事を隠蔽しようとしたり罪をかぶせようとする上司との攻防にありました。解決すべき課題は取引先への融資に関することではありましたが、真の悪役は銀行の組織内、身内にいるという展開。

テレビのドラマとして視る分にはドキドキはらはら、スカッとするのでしょうが、これが自社で起こっていることだとしたら?いや、起こっているかも知れない(あるいは実際におこっている)と思いながら視ていた経営者の方もいらっしゃったのではないでしょうか?半沢直樹のような社員が、会社の問題を解決してくれたらどんなに有り難いだろう。半沢直樹が望めない自社ではどうやったら解決できるだろう?信頼していた部下の不正や不祥事を知ったときに、自分ならどうするだろうか?
見終わった後も、きっといろいろな思いを巡らせていたのではないでしょうか。

不正や不祥事に関わる本人だって、半沢直樹を見ていたはずです。追い詰められる上司や敵役に感情移入をしていたかもしれません。組織ぐるみの不祥事では、本当はそんなことに荷担したくはなかったのにいやいやだったり、知らない間に共犯の片棒を担がされていたりということもあります。上司からの指示に逆らえず従ったり、家族や仕事上の弱みにつけ込まれだり……
そのつもりは無くても、パワハラと受け取られることだってあります。

問題の重たさや程度の差こそあれ、いろいろなことが組織のなかでは日々繰り返されています。会社にとっての重要度と各従業員にとっての重要度や受け止め方も違います。それぞれの受け止め方の違いから「倍返し」なんかされたらたまったもんじゃありません。

ドラマでも現実でも、組織の意志決定では会議が重要な位置づけを占めます。会議の場では、論理的に説得することが求められ、反論するにも論理的でなければなりません。 そうでなければ場の空気に従うことになってしまいます。会議のあり方、進め方が、場合によっては不正・不祥事やパワハラを起こす元になったり、隠す事になったりもするのです。
半沢直樹がスタートした頃、同じ池井戸潤氏原作のドラマ「7つの会議」 が放送されていました。会議は組織を映し出す場でもあり、様々な思いや思惑が交錯する場。その会議を通して組織の不正や会社の未来を考えさせるドラマでした。
半沢直樹のドラマも、実は会議室で起こっていたのです。

あれだけの視聴率のドラマですから、会社の多くの人が見ていることでしょう。半沢直樹をネタに、部下とコミュニケーションを取りながら、組織の問題点や自社の会議のあり方など振り返ってみてはいかがでしょうか?

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