2019年12月25日水曜日

日本の育児支援は周回遅れ、EUでは量の確保から質の向上へ:ベルギー取材レポートその3

ブリュッセルで駐在日本人ママの座談会を実施
 週1回の半休で最高40カ月の育休取得が可能:ベルギー取材レポートその2

ブリュッセルでは現地駐在日本人ママの座談会、ブルージュでは結婚して現地に定住している家族のインタビューなどしてきました。
その中で、小学校に上がった子でも育休を取っている人もいるという話が出ました。そんなに時間をおいても育休が取れるのかと帰国後調べてみると、分割して12歳になるまで育休を取得できるのですが、もう一つ別な制度もありました。

日本でも参考にしたいタイムクレジット


日本では「働き方改革」がしきりに言われています。その点、ベルギーではワークライフバランスを重視した休職制度が充実しています。これが「タイムクレジット(Crédit-temps)」制度と呼ばれ、もともとは1980年代に休職によってキャリアを中断させないようにとスタートした制度です。指定される「理由」 のいずれかを満たせば、誰でも休職することができます。タイムクレジットで認められる休職理由の一つに「8歳未満の子供の世話」が含まれているため、育児休暇※と混同される事も多いようです。タイムクレジットは、育児休暇とは全く別の制度となっており、取得方法や取得条件などが異なっています。

タイムクレジットの対象は、
 ①8歳未満の子供の世話
 ②緩和ケア
 ③身内の病気または深刻な健康上の問題の世話
 ④障害を持つ子供の世話
 ⑤身内の病気の未成年者の世話
 ⑥学業
 いずれかの休職理由を満たす人は、生涯キャリアを通し、全ての理由により計最大51か月(子供の人数や休暇の取り方に関わらず)休職することができます(55歳以上のタイムクレジット制度は含まない) 。

育児休暇と(8歳未満の子供の世話を理由とした)タイムクレジットの主な違いの比較

タイムクレジット制度の下での休職期間は、
 ①完全休職(3か月単位で取得可能)
 ②2分の1休職(3か月単位で取得可能)
 ③5分の1休職(6か月単位で取得可能)
のみが可能であり、「10分の1休職」は選択肢に含まれていません。
休職中は給与が出ない代わりに国家雇用局(ONEM)から定額の手当てが支給されますが、育休手当よりも低い額となっています。民間企業の社員の場合の支給額は以下の通り(2018年9月1日の数値)です。これだけで生活できるほどの額ではありませんが、休職すれば収入が途絶えて貯蓄を切り崩しながらの生活になるので助かります。

タイムクレジット休職中の手当額
これから日本では介護を理由にした休職や離職が増えると見られています。このタイムクレジットのような制度が導入されれば、育児だけでなく看病や介護を理由に離職せずにすむことになるでしょう。 




ゲント大学 Michel-Vandenbroeck教授インタビュー


日本にも度々招聘され講演をされているゲント大学のMichel-Vandenbroeck教授にお時間をいただくことができ、大学の先生の研究室でお話しを伺ってきました。教授はEUの育児支援政策に関しての研究をされているだけでなく、ベルギーの主要な育児支援政策のとりまとめをされています。
Michel-Vandenbroeck教授
 1時間弱という短時間(しかも通訳を挟みながら)ではありましたが、インタビューの要旨は以下になります。

「これまでの子育て支援政策はバルセロナターゲット に基づく数的な指標を追う政策決定をしていましたが、2018年4月に新しいターゲットを掲げ、現在は数的な達成率から内容・質(クオリティ)を求めるようになりました。
これまでの数的達成目標というのは、女性の社会進出をサポートする指標でした。それは見方を変えれば子ども自体に焦点が当たっていなかったので、新しい指標は子どもが幸福感を感じるか、子どもの気持ちに寄り添っているか、幼稚園・保育園の環境はどうか、 などに焦点を当てたものです」と。

指標の詳細など詳しくは
memoq(pdfダウンロード ※オランダ語)

日本は数的目標さえクリアできず周回遅れに


Michel-Vandenbroeck教授のお話しを伺いながら、日本の子育て支援策の遅れをはがゆくかみしめていました。つい先日、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数では、日本は世界121位と昨年よりも更に低位に沈んでいます。 レポートページに大きく示されているのが、下の「企業の取締役会の女性の割合」の図です。
1位のフランスは43.4%、ベルギーは30.7%で8位。対して日本は一番下に小さな円の5.3%に過ぎません。これまでに取材に訪れた子育て先進国は、一番下位のカナダでも25.8%で15位です。これを見れば、女性の社会進出を受け入れる事と少子化対策は、セットで考えなければならないことが良くわかります。

企業の取締役会の女性の割合

ベルギーを始め上位の国は、女性の社会進出も子育て支援も既に数的目標からクオリティを問う段階に移っているのに、日本は遙かに遅れていることは誰の目にも明らかです。周回遅れどころかマラソンで言えばみんながゴールをして息を整えている頃に、やっと折り返し点に着いたと言うくらいの遅れに感じます。
今年の出生数がとうとう90万人を切り86万4000人に留まりそうです。2020年度の政府予算案でもまだ危機感はないようです。政府自民党は高齢者の票欲しさに、このまま手をこまねいて日本の未来を潰すつもりなのでしょうか?

※育児休暇:日本では法律でも「育児休業」ですが、「Le congé parental」の翻訳として「育児休暇」としています。

子育てに経済的な支援(手当)が手厚いベルギー:ベルギー取材レポートその1
週1回の半休で最高40カ月の育休取得が可能:ベルギー取材レポートその2
子育て先進国と日本との違いを整理 2017-フランス取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性



2019年12月24日火曜日

週1回の半休で最高40カ月の育休取得が可能:ベルギー取材レポートその2

ベルギーにももちろん、産休も育休もあります。それは母親にだけでなく、父親に対してもです。父親の産休(父親休暇)はフランスのそれと似ていますが、フランスの父親の産休が「父親になるための準備」期間であるのとはちょっと違うようです。

男性が「産休」を取って育児・家事をする事の意味-パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性
夕方お迎えの時間帯には、パパが自転車でお迎えも

母親には15週間、父親には10日間の産休


ベルギーでは、出産に際して女性は産前産後合計15週間(多胎児の場合には17週間)の産休が取られます。そのうち、出産予定日の7日前からは休暇取得が義務となり、産前は予定日の最大6週間前胎児の場合には7週間前)からの取得が可能です。産前の産休期間が6週間より短い場合は、その残りを産後に振り替えることができます。
産後は最低9週間産休を取る(取らせる)義務があり、産前からの繰り越しも含めると最長14週間まで延長が可能です。
母親の産休期間中は給与が出ないため、Mutualité(社会保険の運用会社)から最初の30日は給与合計支給額の82%(上限なし)、企業との契約関係がない人は79.5%が、31日目からは75%(上限あり)が支給されます。

一方、父親は10日間の産休取得が可能です。父親の産休は義務ではありませんが、取得すれば最初の3日間は雇用主が給与の100%を負担する有給休暇となります。残りの7日も給与の82%がMutualité(社会保険の運用会社)から支給されます。そのため、父親の産休取得率は高いようです。また、10日間の産休はまとめて取る必要は無く、出産日から4カ月以内であれば分割しての取得も可能です。ここがフランスの「父親になるための2週間」との違いでしょうか。
帰国後、ベルギーの制度を確認しながら色々調べているうちに、 「駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン EU MAG」を見つけました。そこには様々な統計データも掲載されているのですが、

「欧州のワークライフバランス事情」

には、「出産休暇、育児休暇、父親休暇」についてまとめてあります。父親休暇の記述は短いのでそのまま以下に引用します。
父親休暇は、EU加盟国全体で平均しておよそ2週間だが、フィンランドでは54日、アイスランドでは3カ月、ラトビアとスロヴェニアでは1カ月。反対に、クロアチア、キプロス、アイルランド、リヒテンシュタイン、スロヴァキアでは、父親休暇は皆無。ブルガリアとルーマニアではそれぞれ15日と10日になるが、育児講習参加という条件が付けられており、不参加の場合は5日のみ。
EUでは父親休暇の平均は2週間。先日発表された今年のジェンダーギャップ指数で1位だったアイスランドはなんと3カ月です。ブルガリアとルーマニアでは、育児講習に参加しないと日数が大幅に減らされるという条件まで付いています。 
日本の場合、父親の産休は制度的には定まっていません。企業(あるいは行政組織など)ごとに特別有給休暇として定められているくらいです。

父母それぞれフルタイムで4カ月の育休


ベルギーの育休は、母親と父親がそれぞれに「フルタイム換算で計4カ月」取得可能です。このフルタイムでというのが日本の働き方、育休の取得の仕方と大きく違う点です。フルタイムというのは1週間5日間の勤務を指し、このフルタイムを分割して育休が取れるのです。
取得希望者は、以下の4通りの取り方の中から自由に選択して取得できます。
 ①フルタイム勤務時間を完全に休みとして最高4か月(1週間単位で取得可能)
 ②フルタイム勤務時間の半分を休みとして最高8か月(1か月単位で取得可能)
 ③フルタイム勤務時間の5分の1(つまり週1日)を休みとして最高20か月(5か月単位で取得可能)
 ④フルタイム勤務時間の10分の1(つまり週半日)を休みとして最高40か月(10か月単位で取得可能)

ベルギーの小学校では水曜の午後に授業がないため、母親と父親がそれぞれ10分の1休暇を取得し、小学校の迎えに行ったり、午後の時間を一緒に過ごしたりしている例が多いといいます。取材した家族のお友達でも、そういう取り方をしている家族が多いと言っていました。
休暇中は給与が出ない代わりに国家雇用局(ONEM)から定額の手当てが支給されます。民間部門の社員の場合の支給額(ユーロ総額/月 )は以下の通り(2018年9月1日の数値)。公共部門や教育部門は異なる制度となっているほか、片親特別手当などもあります。 

※育児休暇:日本では法律でも「育児休業」ですが、「Le congé parental」の翻訳として「育児休暇」としています。

育休の長さ・所得保障よりも使い勝手の良さ


育休期間中の月額支給額 €
完全休暇だと日本円で10万円ほどですので、収入が大幅に減るケースがほとんどではないかと思われます。むしろ、育休の取得パターンを多様にすることで使い勝手を良くし、家族のライフスタイルや夫婦の働き方に合わせた取得ができるように配慮しているように感じます。そのため、まとめて取るよりも夫婦二人で2分の1ずつなど分割して取得する人が多いのではないでしょうか。

こういう柔軟な育休取得を可能にするためには、夫婦での協力に加え、保育所や託児所なども対応しなければなりません。

ニュージーランドでは登園日を曜日で選べる様になっていたことを思い出しました。

日本でも単に(取得可能な)期間が永い育休制度ではなく、家族のライフスタイルにあわせて柔軟に活用できる制度に変えていかなければならない時です。
このままでは日本の出生率は上がらず、出生数も増えることはないでしょう。

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