2019年12月24日火曜日

週1回の半休で最高40カ月の育休取得が可能:ベルギー取材レポートその2

ベルギーにももちろん、産休も育休もあります。それは母親にだけでなく、父親に対してもです。父親の産休(父親休暇)はフランスのそれと似ていますが、フランスの父親の産休が「父親になるための準備」期間であるのとはちょっと違うようです。

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夕方お迎えの時間帯には、パパが自転車でお迎えも

母親には15週間、父親には10日間の産休


ベルギーでは、出産に際して女性は産前産後合計15週間(多胎児の場合には17週間)の産休が取られます。そのうち、出産予定日の7日前からは休暇取得が義務となり、産前は予定日の最大6週間前胎児の場合には7週間前)からの取得が可能です。産前の産休期間が6週間より短い場合は、その残りを産後に振り替えることができます。
産後は最低9週間産休を取る(取らせる)義務があり、産前からの繰り越しも含めると最長14週間まで延長が可能です。
母親の産休期間中は給与が出ないため、Mutualité(社会保険の運用会社)から最初の30日は給与合計支給額の82%(上限なし)、企業との契約関係がない人は79.5%が、31日目からは75%(上限あり)が支給されます。

一方、父親は10日間の産休取得が可能です。父親の産休は義務ではありませんが、取得すれば最初の3日間は雇用主が給与の100%を負担する有給休暇となります。残りの7日も給与の82%がMutualité(社会保険の運用会社)から支給されます。そのため、父親の産休取得率は高いようです。また、10日間の産休はまとめて取る必要は無く、出産日から4カ月以内であれば分割しての取得も可能です。ここがフランスの「父親になるための2週間」との違いでしょうか。
帰国後、ベルギーの制度を確認しながら色々調べているうちに、 「駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン EU MAG」を見つけました。そこには様々な統計データも掲載されているのですが、

「欧州のワークライフバランス事情」

には、「出産休暇、育児休暇、父親休暇」についてまとめてあります。父親休暇の記述は短いのでそのまま以下に引用します。
父親休暇は、EU加盟国全体で平均しておよそ2週間だが、フィンランドでは54日、アイスランドでは3カ月、ラトビアとスロヴェニアでは1カ月。反対に、クロアチア、キプロス、アイルランド、リヒテンシュタイン、スロヴァキアでは、父親休暇は皆無。ブルガリアとルーマニアではそれぞれ15日と10日になるが、育児講習参加という条件が付けられており、不参加の場合は5日のみ。
EUでは父親休暇の平均は2週間。先日発表された今年のジェンダーギャップ指数で1位だったアイスランドはなんと3カ月です。ブルガリアとルーマニアでは、育児講習に参加しないと日数が大幅に減らされるという条件まで付いています。 
日本の場合、父親の産休は制度的には定まっていません。企業(あるいは行政組織など)ごとに特別有給休暇として定められているくらいです。

父母それぞれフルタイムで4カ月の育休


ベルギーの育休は、母親と父親がそれぞれに「フルタイム換算で計4カ月」取得可能です。このフルタイムでというのが日本の働き方、育休の取得の仕方と大きく違う点です。フルタイムというのは1週間5日間の勤務を指し、このフルタイムを分割して育休が取れるのです。
取得希望者は、以下の4通りの取り方の中から自由に選択して取得できます。
 ①フルタイム勤務時間を完全に休みとして最高4か月(1週間単位で取得可能)
 ②フルタイム勤務時間の半分を休みとして最高8か月(1か月単位で取得可能)
 ③フルタイム勤務時間の5分の1(つまり週1日)を休みとして最高20か月(5か月単位で取得可能)
 ④フルタイム勤務時間の10分の1(つまり週半日)を休みとして最高40か月(10か月単位で取得可能)

ベルギーの小学校では水曜の午後に授業がないため、母親と父親がそれぞれ10分の1休暇を取得し、小学校の迎えに行ったり、午後の時間を一緒に過ごしたりしている例が多いといいます。取材した家族のお友達でも、そういう取り方をしている家族が多いと言っていました。
休暇中は給与が出ない代わりに国家雇用局(ONEM)から定額の手当てが支給されます。民間部門の社員の場合の支給額(ユーロ総額/月 )は以下の通り(2018年9月1日の数値)。公共部門や教育部門は異なる制度となっているほか、片親特別手当などもあります。 

※育児休暇:日本では法律でも「育児休業」ですが、「Le congé parental」の翻訳として「育児休暇」としています。

育休の長さ・所得保障よりも使い勝手の良さ


育休期間中の月額支給額 €
完全休暇だと日本円で10万円ほどですので、収入が大幅に減るケースがほとんどではないかと思われます。むしろ、育休の取得パターンを多様にすることで使い勝手を良くし、家族のライフスタイルや夫婦の働き方に合わせた取得ができるように配慮しているように感じます。そのため、まとめて取るよりも夫婦二人で2分の1ずつなど分割して取得する人が多いのではないでしょうか。

こういう柔軟な育休取得を可能にするためには、夫婦での協力に加え、保育所や託児所なども対応しなければなりません。

ニュージーランドでは登園日を曜日で選べる様になっていたことを思い出しました。

日本でも単に(取得可能な)期間が永い育休制度ではなく、家族のライフスタイルにあわせて柔軟に活用できる制度に変えていかなければならない時です。
このままでは日本の出生率は上がらず、出生数も増えることはないでしょう。

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