2014年1月26日日曜日

農薬混入事件でマルハニチロ、アクリフーズの社長が引責辞任発表、しかし…

1月25日、アクリフーズの契約社員が、偽計業務妨害容疑で逮捕されました。昨年末の発表からほぼ1か月、異臭がするという最初の報せから2ヶ月半経過して、やっと一つの区切りを迎えたことになります。
容疑者逮捕を受けて、同日夜、マルハニチロホールディングス社長久代敏男氏、アクリフーズ社長田辺裕氏、群馬工場長木下好夫が揃って記者会見に臨みました。その席で久代社長は「グループ内に悪質な犯罪行為に及ぶ人物の存在を許したことは痛恨の極み」と述べると共に、自らを含め、田辺社長、マルハニチロHDの品質保証担当の役員の辞任、関係する役員の報酬削減などの処分も発表しました。
消費者への健康被害をもたらす事件の原因が、社内の給与制度や管理体制にも有るとの認識を示し、自らの経営責任を明確にしました。 両社長は3月31日をもって辞任、それまでの役員報酬も減額するということです。
しかし、もともと4月1日付けでマルハニチログループの5社は合併してマルハニチロとなることが決まっていますので、何も起こらなくても両社の社長は4月1日以降存在しません。社長席がある最終日に辞任することになります。潔く引責辞任を発表したところまでは、これまでの社長と違うなと思ったのですが、合併がなかったらどうだったんだろうかと穿った見方もしてしまいます。ただし、久代社長は4月からは新会社の取締役相談役に就任する予定でしたが、取り消すということです。

今後は、容疑者の動機や犯行手口などは警察からの発表となるでしょうから、会社としての会見はこれが最後となるのかもしれません。
これまでの記者会見を振り返ると、珍しくキチンと準備されたものでした。特に昨夜の会見では、久代社長自らが経営責任を明確にし、「引責辞任」を口にしました。テレビニュースや新聞記事では、「責任逃れをする経営者」を悪役に見立てて報道しがちです。しかし今回は、責任追及をして首を取ることが役目だと勘違いしている一部の記者にとっても先手を取られ、それ以上の追求のカードが無くなってしまいました。 これにより、責任問題追求で無駄な時間を使うことなく、事実確認と今後の対応や改善計画などの未来についての整理に集中することができます。
社長の椅子にしがみつく経営者の醜い姿が報道されると、ブランドイメージまで損なうことになりますから、事件発覚当初より、一区切りが付いた段階で引責辞任を発表することは決めていたと思われます。

今回の事件の影響で、2013年度のグループ連結営業利益の下方修正も発表しました。容疑者の動機がまだわかりませんが、給与や待遇に不満があったとの報道もあります。給与や人事制度の不公平感、管理体制の甘さを放置すると従業員の不満が爆発し、制度整備への投資を惜しんだ額の数倍もの損失として跳ね返ってくる可能性を示唆した事件と言えるでしょう。

※記者会見に出席したわけではなく、テレビのニュース報道などで見る限りの印象です。

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2014年1月23日木曜日

「明日、ママがいない」の炎上騒動とスポンサーのあり方

日本テレビ系列で放映されている連続ドラマ「明日、ママがいない」の今後に注目が集まっています。初回放送後、赤ちゃんポストを設置している慈恵病院から放送中止の申し入れがなされ、全国児童養護施設協議会も抗議文を送付、全国里親会からも改善要求が出ています。放送倫理・番組向上機構(BPO)へ審議申し立ても行われたと言います。
そして、第2回放送ではスポンサー8社のうち3社のCMが放送されなかったのに加え、通常番組タイトルの後に入るスポンサーの読み上げと表示が無かったといいます。

明日、ママがいない」そのものを見ていないので、番組の内容について触れることはしませんが、一連の報道やネットでの騒ぎからいくつかの疑問と問題点を指摘したいと思います。

日本テレビの対応


抗議や放送中止申し入れを受けてもなお、 「放送は継続する」と回答しています。確かに、始まったばかりのドラマですから、最後まで見終わって初めてドラマに込めたテーマやメッセージが伝わるのかも知れません。しかし、局の対応からは最後まで見させるだけの展開の提示や局側の工夫が何も見えてきません。フィクションとは言え、非常にデリケートなテーマであり設定です。それだけに事前に様々な反応が想定できたはずです。各方面への事前の根回しもそうですし、映画で言えばR指定のように「○○○の表現がある」など告知して心の準備をさせておけば反応も違ったでしょう。抗議や反応に対する対応準備もできたはずです。
企画の段階で議論を尽くし、波風が立つことを前提とした覚悟の上での脚本/放送だったのでしょうか? 抗議や申し立てに対しての対応に、誠実さや戦略性も感じられないために、残念ながら現状では視聴者もドラマの先行きに期待が持てないのではないしょうか。

スポンサーの対応


事前にドラマのテーマやストーリー、あるいは企画書などを確認した上で番組のスポンサーになっているはずです。局にしてもプロデューサーにしても、スポンサーの意向を無視するわけにはいきません。番組スタート時にはスポンサーとしてOKを出していたはずです。それなのに抗議があったからスポンサーを降りるというのは筋が違うと思います。
2回目の放送では、初回にスポンサー表示されていた8社の内、エバラ食品工業とJX日鉱日石エネルギー(ENEOS)、キユーピーの3社のCMが流されず、AC(公共広告機構)のCMに差し替えられたと報じられました。日清食品、花王、NTT東日本/西日本、三菱地所グループ、富士重工業(SUBARU)、小林製薬のCMは流されたそうです。
ひょっとしたら、スポンサー各社の宣伝担当者は1クール3か月全体の筋書きも理解し、この展開をある程度予測していたかもしれません。ところが、世間の反応に驚いた各社の上層部が、トップダウンで圧力をかけた可能性も否定できません。 そうだとしたら、いかにも日本的横並びの、保身が先に立つ組織と顔の見えない組織人の仕事の進め方がそこに見えてしまいます。

スポンサー表示を落としたのは?


番組提供スポンサーの読み上げ・表示を落としたのは、局の配慮でしょうかそれともスポンサーからの要望だったのでしょうか?実際に3社はCMを流すのを拒否したのですから、スポンサーからの要望があったと考えるのが順当かもしれません。あるいは「スポンサーを降りる」と言われて日本テレビ側が代替案を提示したのかもしれません。
いずれにしても、この行為そのものが新たな話題を提供してしまうことになりました。

今回の騒ぎで見えてきたもの、いえ見えてこないのは、「覚悟」ではないでしょうか。罪深い大人の仕事に対する覚悟のなさが、視聴者や世間にモヤッとした歯切れの悪い印象だけを振りまき、ドラマで演ずる子役達のがんばりを台無しにしていると感じるのは、私だけでしょうか?


2014年1月21日火曜日

ノロウィルスなどの食中毒が発生したら

ここ数日、ノロウィルスの集団感染による食中毒のニュースがメディアを騒がせています。
ホテル・レストランなどの飲食業にとどまらず、食品を扱う企業にとっては他人ごとではありません。 実際に私がサポートしたホテルでも食中毒を出し、厳しい対応をした経験もあります。
そこで、食中毒が発生した場合の対応を簡単にまとめてみます。

1,食中毒の報せは外から来ると心得る
食中毒発生の報せは、必ず外からもたらされます。そのほとんどは保健所からで、まれにマスコミの取材がそれよりも早いこともあります。食中毒の被害者が身内などでない限り、内部で発見できることはほとんどありません。報せを受けたときにはまさに晴天の霹靂です。
いつ、どのような方法で食中毒発生の報せが来るかはわかりません。経営者の元に直接報されるのか、たまたま電話を取った人が知るのか。このような非常事態に際し、 直ぐに経営者・現場責任者に情報が上がるように末端まで徹底していないと、知らないうちにマスコミが押し寄せて大変な騒ぎとなってしまいます。こうなると もう手遅れです。 

2,報せを受けて最初にすることは
大きな組織であれば「対策室」の設置となりますが、それほど大きくない組織でも直ぐに会議室に集まり対応協議です。しかし、会議室に集まるまでの間にも周辺では事は進んでいます。
まず、その時に対応指示・決定ができる、可能な限り大きな権限を持つ人を司令塔として決めます。可能であれば社長などの経営者でしょうが、現場から遠くにいることも多いので、スタートはその現場の組織図で一番上にいる人となるでしょう。
ホテルであれば総支配人、あるいは支配人。レストランであれば支配人や店長ということになります。社長、経営責任者が、この事案については誰の指示で動くのかを明確に表明してください。指揮官・司令塔のいない状態では正しい対応はまず不可能です。

3,指示することは4つ
司令塔からの的確な指示が求められますが、以下の4つを手分けして当たるよう、その責任者と担当を振り分けます。この時点で、保健所から営業停止処分が出ているはずですので、全員で事に当たります。
(1)被害者と症状・状況の把握
(2)保健所・マスコミ対応
(3)原因の調査
(4) お客様へのお知らせと今後の対応策の検討
以下、具体的に記します。

(1)被害者と症状・状況の把握
多くの場合、被害者は入院するか病院に運ばれて手当を受けています。保健所からは、入院先や搬送先、あるいは症状を訴えて治療を受けた病院などの情報も知らされます。その情報を元にしかるべき人が直ぐに謝罪とお見舞いに出向きます。入院先が複数の場合には、手分けして向かってください(順にまわっていると遅くなって既に帰られていたり、心象を害しかねません)。

最初の訪問では具合をお尋ねし、退院後の住所や連絡先を確認するにとどめ、改めて見舞いと謝罪に参りますと名刺を置いて一旦引き上げます。
食中毒発生の現場がホテルで対応が夜であれば、タオルや歯ブラシなどの洗面セットを用意して行くと良いでしょう。被害に遭われた方は、着替えも洗面道具も持たないままいきなりの入院で朝を迎えることになるからです。

(2)保健所・マスコミ対応
保健所からは具体的な指摘や改善指示が示されますので、粛々と対応します。
一方でマスコミ取材に対しての窓口は一本化し、対応する場所も決めます。普通は、社長や総支配人、店長のコメントを求められますのでそれに準じた人が良いでしょう。広報組織が有る会社であれば、広報部長などが対応することも可能です。社長や総支配人が被害者へのお見舞いを優先するかメディア対応を優先するかは、その時々で判断です。
特に、先日のアクリフーズの冷凍食品の事例のような、現在進行形で被害が拡大する恐れがあるようなケースでは、社長にはマスメディアを通じて発表することで被害拡大を防ぐ事が優先されます。
言うまでもありませんが、言い訳や自己弁護をするような発言は厳禁です。

(3)原因の調査
食中毒と断定された時点で、保健所からは原因菌や検出されたウィルスの情報が報されます。その情報を元に、発生場所、保菌者の特定、発生原因などを調査します。ほとんどは調理場・厨房が発生源ですが、そのような固定観念で調査を始めると発生場所・原因を見誤ることがあります。
特にノロウィルスでは、空気中に浮遊して拡散する場合が多くあります。2006年、池袋のホテルで起こったノロウィルスによる食中毒は、吐瀉物の処理が不適切であったためにウィルスが空気中を舞い、感染が広がりました。

(4) お客様へのお知らせと今後の対応策の検討
多くの場合先にメディアで報道されますので、こちらから連絡する以前にお客様の耳に入っています。 それでも、ご予約をいただいているお客様や常連のお客様へは個別にご連絡の必要があります。特に、営業停止期間中にご予約をいただいているお客様については早急な連絡と善後策の提示が必要です。ホテルや婚礼施設などであれば、結婚式・披露宴や宴会のケースもあります。開宴できないとなれば多くのお客様のスケジュールが狂うことになります。出席・列席予定者の中には、直ぐに連絡が取れない人もいるかもしれませんし、海外などの遠方からわざわざ来られる方もいます。ご予約をいただいているお客様からは、直ぐにお問い合わせがあることでしょう。同時にどのような対応をするか回答を求められます。もちろん、食中毒発生を受けて、キャンセルを申し出られるケースもあります。
そのような宴席をどのように振り替えるか、乗り切るか、一度シミュレーションをしておくことをオススメします。

食中毒の原因は、人に有ったり器機にあったり、あるいは仕組みにあったりと様々です。もちろん、複合的な要因で発生することがほとんどです。また、夏はO-157などの高病原性大腸菌を始めとする細菌による食中毒が中心になりますし、冬はウィルスによる感染性食中毒が中心となります。当然、原因菌によっても対応は変わって来ます。あまり詳細に書き出すときりがありませんので、今回はこのあたりにとどめておきます。
 
以下、ノロウィルスに関するご参考
厚生労働省 ノロウィルスに関するQ&A
ノロウイルス食中毒対策について(提言)-薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会食中毒部
厚生労働省 ノロウィルス対策リーフレット 
内閣府 食品安全委員会 ノロウィルスについて


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2014年1月13日月曜日

企業クライシスとクロスロード

「クロスロードゲーム」をご存じでしょうか?
阪神淡路大震災の際、実際に起こった目の前の事象に行政担当者が難しい判断を迫られたことをきっかけに研究が進み、主に行政の災害危機管理のシミュレーションゲームとして広まっています。
「クロスロード」には、「交差点、重大な分かれ道、人生の岐路、出会う場所」などの意味があります。企業でも、難しい判断を短時間で下さなければならない場面(クロスロード)は多くあります。それが不祥事や事件・事故となると、判断の先送りや誤りは企業生命を脅かすことにもなりかねません。特に近年多いのが、このような企業クライシスに際しての公表の是非とタイミングを巡るクロスロードです。
8年前(2007年)、立て続けに世間を賑わせた食品の偽装や賞味期限改ざんは、内部告発やマスコミの取材報道により発覚するものが中心でした。しかし昨年マスコミを賑わしたホテルやレストランの不適切表示・偽装は、記者会見やリリース、ホームページなどで自ら公表するところばかりでした。この背景には、ソーシャルメディアの存在が有るのかもしれません。バイトテロなどという言葉も流行りました。アルバイトによるtwitterなどへの不適切行為の投稿で炎上し、閉店や倒産にまでいたるケースが有ったり、丸亀製麺ではざるにカビが生えていた事をお客様が写真付きでNetに書き込み、それが拡散したりと言うことも起こっています。
かつては「人の口に戸は立てられない」と言ったものですが、今は「Netの書き込みの手は止められない」といったところでしょうか。何かの不祥事や問題が第三者によって公表される前に、自己防衛的に慌てて発表していますといわんばかりの、記者会見も支離滅裂なものばかりでした。重要なクロスロードにおける検討過程と判断・決断がきっと場当たり的なものだったからでしょう。

災害時、行政の現場でのクロスロードでは事象に対して客観的に思考することが比較的容易です。それは、判断の先にあるのは現場や被害者への影響と結果であり、自分自身に跳ね返ってくることではないからです。どうしたら被害を少なくできるか、現場の混乱を最小限に抑えられるかを冷静に考えられます。
ところが、企業の不祥事や事故・事件では、下した決定が自分や身近な人にも跳ね返ってきます。その結果、次の問題や混乱が社内に引き起こされます。最初から意図的・故意に起こした不祥事はもちろんのこと、そうではない事故であっても責任を追及されることを避けるために、あるいは想定される社内の混乱やパワハラが怖くて見て見ぬふりをしたり先送りをしたりします。
しかし、そのような先送りは発覚した時にダメージを大きくするだけです。問題の発生・存在を認知したら、正しく向き合わなければなりません。その時がクロスロードなのです。逃げずに正しい判断と決断が迫られます。判断を誤ると、お客様に被害が及び、会社にも大きなダメージとなって跳ね返ってきます。先延ばしをすればするほど対応の選択肢は少なくなるばかりか、公になったときの社会的な批判は大きくなるばかりです。最悪の場合は経営の責任を問われるどころか、会社が倒産したりということにもなります。

企業のクロスロードのケーススタディとしては、ジョンソン・エンド・ジョンソンのタイレノール事件やグリコ森永事件、参天製薬の目薬脅迫事件などが有名です。しかしこれらは第三者からの脅迫でした。(個人的な怨恨などがあるにせよ)問題の発生は中からではなく外部からもたらされています。このように事件の発生が明確に認知されることは極めて希です。しかも、原因は社内にはなく第三者による犯罪ですから、災害発生時と同様に(比較的)客観的に思考し判断できるケースです。問題が自社内で発生したケースだと、こうはいかないはずです。
一連のホテル・レストランメニューの不適切表示や、現在進行中のアクリフーズの農薬混入事件(当初は事件ではなく事故としてスタート)などのようなケースで、適切な判断・決定が下せますか?

クロスロードゲームで自社の様々なケースを想定し、日頃からシミュレーションしておかれることをおすすめします。

クライアント様の社内研修や学生の授業でも好評です。
ファシリテーターが必要なときにはお声かけください。

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