2017年7月17日月曜日

子育て先進国と日本との違いを整理 2017-フランス取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性


各国の平均所得US$(OECD2015)
日本の子育て支援の方向性を考えるために、2014年に「子育て先進国と日本との違いを整理してみると」としてそれまでの取材をもとにブログにまとめました。しかし、今年のフランス取材から帰国すると、もう一度整理する必要があると思い始めました。過去の取材時よりも円安ドル高が進んだせいもあり、相対的な平均所得も日本は随分下がってしまい(他の国が円ベースで上がった)、OECDの中でも位置づけが変わって来ています。

主要国の家族関係社会支出の
対GDP比(内閣府少子化対策より
これまで、パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性として5回にわたってフランスの子育て支援制度や現状をアップしてきました。フランスのやり方が全て良い訳ではないですし、そのまま日本で実施できるわけでもありません。国や民族が抱える背景や歴史も違いますし、前提となるGDPや税収(財源)も違います。

しかし、内閣府のデータから、日本とフランスの家族関係社会支出を計算してみると、

日本   51,060億ドル×1.32%=673.99億ドル
フランス 25,804億ドル×2.94%=758.64億ドル

となります。
日本は、人口もGDPもほぼフランスの2倍なのに、家族関係社会支出額はフランスよりも少ないのです。
先の「子育て先進国と日本との違いを整理してみると」でまとめた表に、新たに基礎的な各国のデータを加えた上でフランスのデータを追加し、一部データを最新(OECD2015)のものに換えて整理し直しました。すると、また違った世界が見えてきました。


「女性の職場復帰」を支える各国の解決策


取材した国の中で,保育園を100%確保して子どもを預かるのはノルウェーだけでした。ただし、預かりは1歳から。背景にあるのは男女平等。仕事の場はもちろん、家事も、子育ても平等。子どもを産むことや子育てが不利益にならないよう、さまざまな制度を整えています。
保育園で0歳児の預かりが無いノルウェー

今後も人口動態にも大きな変化は無く、女性の社会進出も定着してる現状では、保育園の需要と供給の関係も安定しているでしょう。高い税金(直接税まで入れると総所得の半分以上)を受け入れて、国全体、全国民で子育てを支援しています。

OECD加盟国の女性有業率(2015)
フランスは他の地中海沿岸のラテン系諸国と同様、女性は働きに出ず家庭を守るというお国柄でした。女性の有業率はOECDの平均よりも高いとは言え、日本よりも下です。しかし、イタリアやスペインはもっと低いのです。フランスでは女性の社会進出を積極的に推し進め、支援する姿勢を明確にしました。働く女性の職場復帰を果たすために、保育園に拘らず様々な託児形態に対して経済的な支援をし、サポートしています。男性の意識も変わり、同時に高い出生率を獲得したのです。

カナダはもともと女性の有業率が高く、それに加えて第三次ベビーブームを迎えています。何もしなければ多くの子どもが産まれるのに、女性の職場復帰をこれまで同様に支えるためには保育・託児施設が足りません。需要は増えるのに供給が追いつかない今の日本に近い状態です。カナダでは対応する人と場所を多様に確保して乗り切ろうとしています。経済的な支援でそのギャップを解決しているフランスとは、全く違うアプローチです。
カナダ ブリティッシュ・コロンビア州の子育て支援

ニュージーランドは保育と言うよりも教育の場としての意味合いが強いのが特徴。子ども一人一人が使う事ができる1週間分のバウチャー(家庭の負担無し)を、どこでどう使うかは自由。その予算内で済ませるも良し、それ以上に通わせるのも良し。多様な受け入れ先が存在し、受け入れ側の園はより多くの子ども(家族)に選んでもらえるような努力をします。競争原理が働き、全体の質の向上にも繋がります。小さな政府は予算の確保と配分を行えば良いという仕組みです。受け入れ先の園やグループは、毎年審査されるようです。



日本が参考にできることは?


各国の事例から、日本の参考にできることをピックアップしてみます。ただし、ここで前提とするのは合計特殊出生率を上げるためとか、待機児童をなくすためとかではありません。(国として)何を課題とし問題点なのかが明確にならないと、その解決策は明確になりません。あくまでも個別事象の一つの解決策として示してみたいと思います。

主要国合計特殊出生率(内閣府少子化対策より
まず、待機児童問題を早期に解決するためには、カナダを参考にして受け入れ先を増やすことです。認可保育園だけを増やすのではなく、多様な預け先を開拓しなければなりません。それも、国のお墨付きが有る形で。そのためにも預かれる子どもの数や年齢などを明確にする認可や資格を、早期に整理することが必要です。

預ける側が認可保育園に拘る理由は、保育料金です。これはフランスを参考にして、助成金をキャッシュバックする方法を取り入れれば解決します。ただし、その前に助成の対象を明確にする必要はあります。特にベビーシッターに関しては、助成対象の資格を個人に与えるのか、団体(企業)に与えるのかでも変わって来ます。スピードを考えれば、団体や企業を認定するのが早いのでしょうが、一定の資格所持者は個人でも対象にし、自治体で斡旋・管理することも考えられます。
あるいは、施設や法人に助成するのではなく、ニュージーランドのようにあらかじめバウチャーを配付し、バウチャーが使える預け先の保育料金との差額をそれぞれが負担するという方法もあります。

日本の家族関係社会支出額はGDP比で言えばフランスの半分以下。キャッシュバックにしてもバウチャーにしても、増やしても全体に占める割合からすれば知れています。施設への助成ではなくなれば認可・無認可という区別はなくなり、園の保育方針や職員の評価・評判、施設設備などが選択の要因となります。カナダのように負担は大きくても、安心して質の良い(付加価値が高い)保育を選ぶという選択も出てくるでしょう。

経済的負担の理由からの認可保育園1択ではなく、大きな負担を負うこと無く多様な預け先から選択できる社会を作り出し、安心して職場に復帰できる環境を早く整えてほしいものです。

また、子育て先進国では当たり前の、出産・育休後に元の部署・ポジションに復帰できることを法的に保証することも早期に実現するべきです。そして、フランスを見習って男性の産休制度も導入できれば、 社会全体の子どもや子育てに対する意識も変わるはずです。
長時間労働を改善し、幼児教育からの義務教育(無償)化も同時に推し進めて行くことはもちろん必要です。

※ここで例に挙げている各国の制度や状況は取材時のものです。現状は取材時から変わっている可能性もありますのでご了承ください。また、このページは2014年の整理を元に書いていますので、一部記述を割愛させていただいていることもあります。前回の整理も合わせてお読みいただければ幸いです。
子育て先進国と日本との違いを整理してみると(2014)

パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性