2017年7月7日金曜日

都市インフラ的には子育てに優しいとは言えないパリなのに-パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性(5)

ベビーカーでは利用できない地下鉄


パリに滞在中の移動は、もっぱらメトロ(地下鉄)を利用していました。東京と同様に、パリも地下鉄網が充実していて、市内の主要な場所を結んでいます。大変便利だったのですが、一方でお年寄りや体の不自由な方、子連れにはとても利用しづらい交通機関であることも実感しました。
バスの降車ドア。車椅子・ベビーカーはここから乗車できるよう大型のドア

まず、自動改札のゲートの間隔が狭いうえに三つ叉のバーを回して通過しなければなりません。日本では車椅子やベビーカーで通りやすいよう、広めのゲートも用意してありますが、そんな物はありません。出口のゲートも、重たい扉を押して狭い所を通って出るのですが、か弱い女性だとそれを開くのも一苦労です。さらに、地上から地下の駅までの上り下りも、改札からホームまでも、エレベーターどころかエスカレーターさえもほとんどありません。健常者以外は利用するなと言わんばかりです。
昔から「パリの地下鉄ではスリに気をつけろ」と言われていましたが、そういう意味では弱者は最初から地下鉄を利用しない方が良いのかもしれません。トラブルに巻き込まれて抵抗もできないのなら、あえて足を踏み入れない方が良いと言われているようです。
モンマルトルのAbesses駅は丘の中腹にあるため、地下の駅まで延々と階段を下りなければなりませんでした。大江戸線のホームに降りるような感覚です。しかも、石の螺旋階段です。全く下が見えないので、どのくらい下まで続いているのかもわからない上に,人一人がすれ違うのがやっとのスペース。ベビーカーどころか、赤ちゃんを抱っこして降りるのさえ危険です。当然ながら、この駅では地上に出るのはもっと大変です。
ですから、地下鉄でベビーカーやお年寄りを見かけることはありませんでした。


じゃあ、自家用車で移動しているのかというとそうでもなさそうです。パリの道路にはびっしりと車が駐車してあります。その間隔は10cmあるかないかくらい。接触したまま停めている車さえ有ります。駐車するときも出るときも、前後の車に当てながら、押しながら無理やりに割り込む感じです。これではベビーカーを載せたり、下ろしたりはとてもできそうにありません。

生活弱者の足は路線バス


それでは、生活弱者の移動手段はというと、路線バスでした。地下鉄同様にバスも路線を縦横に張り巡らしています。通常は前乗り後ろ降りですが、ベビーカーや車椅子用に、真ん中の降車用ドアは大きな物が設置してあります。そして、ドアの正面には車椅子・ベビーカーが2台ほど並べられる専用スペースが確保してあります。バス停をみると、お年寄りの姿が目に付きます。
私たちが利用した際にも、途中のバス停からベビーカーの親子が乗車してきました。それまでは若者がそのスペースを占領していましたが、ベビ-カーを見るなりすぐに場所を空けます。 そしてベビーカーはそのスペースに収まりました。
日本人ママも、「バスは本当に便利ですよ」と言っていました。

日本だったら、誰かがクレームをいれるとそれに対応しなければならないという空気になるので、全てを完璧に対応しようとなります。当然、対応するためには時間もコストもかかります。しかし、フランスは優先順位を付けて割り切っているように見えます。実現が難しいことには代替案を用意して対応する。地下鉄に乗るのは目的ではなく、手段なのですから。地下鉄の全駅にエスカレーターやエレベーターを設置するなんて、どれだけの時間とコストがかかるか見当も付きません。

お役所への書類申請は大変だとも


何事にもおおらかなラテン系民族のフランス人ですが、地下鉄同様にお役所仕事は厳しいようです。これまで書いて来たように、助成金などで子育ての負担が軽くなるよう、各種制度が充実しています。しかし、そのためには多くの書類を提出しなければならないのだとか。
日本人ママ達はその書類の多さと要求される項目に閉口していました。みなさん、フランス人のご主人にお願いしたそうです。フランスで生まれ育っていない日本人では、とてもそれらの書類を埋めるのは無理だと言っていました。

しかし、日本人ママの座談会で皆同様に口にしたのが、子ども連れに社会が優しいということです。バスだけでなく、カフェやレストランでもすぐに声を掛けて来てくれ、席や場所の確保だけでなく、並んでいても順番を譲ってくれたりするそうです。社会全体で子どもを産み・育てることに対して協力的であり、当たり前のこととして定着しています。子どもを産み、育てやすい国とは、インフラの整備よりも、社会全体で子どもを大切にするという共通認識が大事なのだとよくわかります。

日本で子育てしやすい社会が訪れるのはいつになるのでしょう?政治・経済界のTOPが率先して口にし、行動することで「風」を吹かせることがカギを握るのでしょうね。

パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性


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