2017年7月5日水曜日

保育園とベビーシッターの差が僅かに月1万円-フランス取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性(4)



日本では待機児童の解消が進まず社会問題となっています。国政選挙でも首長選挙でも、地方議会選挙でも、多くの候補者が「子育て支援」「待機児童の解消」を公約に盛り込みます。そして待機児童の解消には認可保育園の定員増が掲げられます。※

親が仕事に出るためには子どもの面倒を誰かに託す必要があり、その一つの選択肢が保育所です。子どもを1日(あるいは一定時間)安全に面倒をみてくれれば、託す相手は認可保育園である必要はありません。祖父母と同居していれば祖父母あるいはきょうだいなど他の家族に面倒をみてもらっても良いのですが核家族化が進んで、そういう家庭は都会では希です。家族に代わる存在と場所の一つが保育園ですが、他にもベビーシッターや保育ママ、一時預かりの託児所などの選択肢もあります。しかし、残念ながら現状では認可保育園以外は預け先ではないくらいの位置づけになっています。

話題になったブログ、「保育園落ちた 日本死ね!!!」も、認可保育園に代わる他の選択肢がない(高くて預けられない)という前提からのこと。選挙公約に掲げる政策も、認可保育園の定数増ばかりです。
これまで取材してきた子育て先進国では、ノルウェーは保育園で100%の預かりを法律で義務づけて実現させています。しかし、ノルウェーはほぼ日本と同じ国土面積に福岡県ほどの人口の国。首都で最大の都市オスロの人口は約65万人で、福岡県の県庁所在地・福岡市153万人の半分にも届きません。手厚い社会福祉政策の前提にある間接税(消費税)25%も、とても日本では受け入れ難いでしょう。日本とは前提となる環境があまりに違います。ノルウェーでできているから日本でも、とはなかなかならないのが現実です。実現するには相当な時間とコストが必要ですが、そんな悠長なことを言っている余裕もありません。
実際に、保育園の数は劇的に増やしているのに、それ以上のペースで入園希望者は増えています。

そもそも、なぜ認可保育園に拘るのかと言えば、それはひとえに家計への負担です。厚労省が定めた要件を満たした保育所は認可保育園として補助金始め様々な優遇を受けることができ、保護者にとっては安い保育料で子どもを預けることができます。と同時に一定の安全基準を国が保証する安心感もあります。それでは、無認可保育園やベビーシッターだと何が違うかと言えば、何よりも費用負担です。認可保育園よりも良い保育環境やサービスを提供する無認可保育園や託児サービスもあります。しかし、認可保育園に入れず無認可保育園やベビーシッターに預けて職場復帰すると、時短勤務などで場合によっては給料がそのまま保育料に消えてしまうようなこともあります。

二人乗せベビーカーをよく見かけるパリ

ここで今回取材したフランスに目を向けると、別なアプローチで母親の職場復帰を解決しています。フランスでは保育園(全て認可園)以外にも母親アシスタント、ベビーシッターなど様々な選択肢があります。母親アシスタントは日本の保育ママ、カナダのチャイルドデイケアのような存在です。日本との大きな違いは、どの預け先でも保護者の費用負担はそれほど変わらないことです(詳細はフランスはどう少子化を克服したかを参照)

パリの住宅街や公園では、二人乗せベビーカーをよく見かけます。最初は双子の子が多いのかな?と思って見ていましたが,どうやら様子が違います。ベビーカーの赤ちゃんは白人で、押しているのはほとんどアフリカ系の女性です。彼女たちは皆「プロ」のベビーシッター(あるいは母親アシスタント)でした。個別に雇い主と契約をし、子どもを預かっているのです。
公園でインタビューをさせてもらったベビーシッターの女性はアフリカ出身で、自分の子どもは別な人に託し、2人の子を預かっていました。
ベビーシッター派遣・斡旋サービスの会社も飛び込みで取材しましたが、その会社はパリだけでも登録のベビーシッターは500名以上だといいます。
フランスでも保護者が第一に希望するのは日本同様に保育園ですが、保育園に落ちたとしても他の選択肢があり、職場への復帰に際しての障害になることはほとんど無いということです。
フランスはどう少子化を克服したかで、高崎さんが試算した保育費の月額概算では、

保育園         4万5千円
母親アシスタント    7万5千円
ベビーシッター    16万9千円
共同シッター(2分割) 5万4千円 
(それぞれキャッシュバック後、1€=123円で計算)

2人載せベビーカーが多い理由がこれでわかります。


一方、過去に取材したカナダ(BC)は日本ともフランスとも違っていました。カナダ(BC州)での料金は、施設や設備が立派になるほど高くなります。ホテルなどの宿泊施設の料金設定に似て、単純に投資額と提供サービス、需要と供給の関係で料金が決まるようです。保育園が一番高くて(1か月10万円以上)、小規模になるほど保育・託児料金は安くなります。最も安価なのは中学生の預かりです。13歳以上になると、研修を受ければ子どもを自宅で預かることができるようになり、ベビーシッターのアルバイトができます。定型の施設を増やすのではなく、ライセンスを細かく設定して付与し、預かり施設・方法を拡大しています。

図らずも今年、森友学園の騒動で預かっている園児の数に応じた保育士が確保できず閉園になるという事態が報道されました。厳格な運用だとこのような場合、園児の数を減らして園の継続は認められないのでしょうか。

日本では社会福祉法人などにしか支払わない助成金を、フランスでは母親アシスタントやベビーシッターと契約した個人(親)に支払っています。言い方を換えれば、施設や設備に対しての助成ではなく、子どもを預けた事に対して出来高払いで助成(キャッシュバック)しています。これは非常に合理的で、競争原理も働き全体の質の向上にも繋がります。ニュージーランドも保護者が預け先(厳密には学習の場)を選んでバウチャーを使っていました。

日本もフランス(パリ)もカナダ(BC)も保活が大変だと言うことは共通していました。妊娠したらすぐに保育園に申し込まないと間に合わないというのは同じです。
パリでも、預け先としてはまず保育園のニーズが一番で、数はまだまだ不足しています。今回取材したパリ市家庭児童局は、更なる保育園の設置・充実に向けて準備中だということでした。保育園の建設自体に反対の声が上がるような状況の日本では、保育園を作る事に拘らず、保育料金を安く設定できるようライセンスを見直し、預け先の拡大を検討すべきではないでしょうか。

※先日の東京都議選でもほとんどの候補者が、公約に子育て支援について何かしら掲げていましたが、全く争点にならなかったのは残念です。
また、必ず財源の問題になりますが、これもフランスやノルウェーの様に企業負担を増やすという考え方もあります。日経新聞でこんな記事もありました。 
フランスに学ぶ子育て財源捻出法 企業拠出金など独自財源

また、フランスの子育て支援制度を詳細に分析した、ニッセイ基礎研究所の記事も以下にリンクしておきます。

フランスにおける少子化社会脱却への道程の段階的考察-出生率2.0を早期達成したフランスの少子化対策を日本に活かすことは出来るのか-

パリ取材で見えてきた日本の子育て支援の方向性

子育て先進国と日本との違いを整理してみると 2017