2020年1月27日月曜日

従業員のプライベートでの事故・事件ー中堅・中小企業のリスク回避と危機管理

前回、ソーシャルメディア活用の基礎(4)従業員のSNS利用でも少し触れましたが、従業員が職場を離れたプライベートな時間に事故や事件を起こすことも珍しくはありません。
最近では、近鉄奈良駅でホームからホームへ線路を飛び越え、線路に落ちる動画がネットに投稿され物議を醸しましたが、この動画に映っていたのはなんと奈良市の職員でした。酔った勢いでこんな行動に至ったようです。本人だけでなく、奈良市も近鉄に対して謝罪し、職員に対しては処分を検討中ということです。
私も若い頃には(こんな危険ではた迷惑ではないにしても)、いろんな所に登ったり飛び越えたりした記憶もあり、一歩間違えれば人ごとではありません。同じように自分が酔ったときの行動と重ね合わせて、人知れず反省した人は多いのではないでしょうか。

本人に悪気は無くても世間を騒がすことになり、その事案によっては家族や所属企業も世間から非難の対象になることもあります。 誰も見ていないと思っていても、近くにいた人が見たり撮影したりするだけでなく、今は防犯カメラやドライブレコーダーなどに記録されることも増えています。

プライベートな時間の言動については、従業員一人一人に自覚を持ってもらう以外に手の打ちようがないのですが、それでも常に大人の行動を心がける、意識するよう問いかける必要はあります。それが社是であったりミッションステートメントであり、会社の存在意義、仕事の意味と仕事に向かう姿勢を意識できていればそうそう変な行動はしないものです。

それでも事故・事件は起きてしまう


事故や事件は避けたくても、起きるときには起き、望んでいなくても巻き込まれてしまいます。一人で起こした単独の事故や事件の場合と、被害者や迷惑を掛けた人がいる場合とで考えるべき事と対応が変わってきます。単独であれば基本は自己責任ですから、本人のケガの状態や損害状況、罪状などを確認して会社として本人や家族に必要なフォローを検討すれば良いでしょう。
しかし、第三者を巻き込んだ場合(と自殺)には様々なことを考慮しなければならなくなります。事故や事件の背景に、会社での就業環境に問題ありとされることも少なくありません。過労やサービス残業、健康管理やストレスチェック、衛生管理、貸し出した業務用備品(社用車やパソコンなど)の管理状態などが問題視され、雇用主の会社に損害賠償請求や刑事罰が下されることもあります。

プライベートではありませんが、つい先週、深夜に社用車が盗まれ、そのクルマが起こした事故の被害者が車の持ち主である会社に「管理に問題があったために盗まれ、事故に繋がった」と損害賠償請求を起こした裁判の最高裁判決が下されました。高裁では所有者である会社の管理に問題があったとして790万円の支払いを認めましたが、最高裁では一転棄却しました。 
盗難車で事故、管理側の責任認めず 最高裁
実は、このような盗難車での事故により、所有者が訴えられるケースは多いと言います。物損事故はもちろんですが人身事故であった場合、更に感情も含めて複雑になります。

最悪の場合を想定できるか


本人や家族、警察から事故や事件に関わる連絡を受け取ったら、本人や家族のフォローと同時に、本人だけでなく自社についても法的責任、経済的負担・賠償責任、社会的責任 の視点で常に考え、判断しなければなりません。最悪の場合には、記者会見や裁判の準備も視野に入れなければなりません。
最初の知らせを受けたときに、どこまで深刻に受け止められるかで初動が違ってきます。従業員がプライベートな時間に起こしたことだからと他人ごとで済ませていると、あとで大変なことになりかねません。企業が責められるのは、ほとんどの場合初動でミスをしています。
少なくとも、警察から照会があった場合には一大事発生という前提で対処するのが賢明です。少なくとも、過去にこの時点でご相談いただいたクライアント様は、結果大事には至りませんでした。

後から出てくる真実


冒頭に紹介した近鉄奈良駅のできごとは、読売新聞によると
動画をスマートフォンで撮影した友人が「友人限定」でインスタグラムに投稿。短時間で削除されたが、複写された動画が18日になってツイッターなどで拡散したという。
とあるように、友達限定であっても一旦ネットにアップされると広く拡散されるのは、昨年さんざん話題になったバイトテロの時にも同じでした。本来は外に出るはずはないものが、何者かによって公にされたり、後になってSNSに投稿されて炎上したり話題になったりと、時限爆弾や地雷は至る所に潜んでします。場合によっては捏造やフェイクニュースの事もありますが、その場合でもウソであることを証明しなければなりません。

今、企業にはSDGs やESG(Environmental、Social、Governance)重視が求められています。ミッションステートメントが従業員に共有され、企業の存在意義だけでなくそこで働く従業員もそれを共有する一員だと自覚が持てる企業経営こそが、一番のリスクマネジメントに繋がるでしょう。

中堅・中小企業のリスク回避と危機管理-目次に代えて(まえがき)