2020年1月30日木曜日

就業規則の制定と見直しー中堅・中小企業のリスク回避と危機管理

イクボス式 会社の就業規則集(2016)
常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法第89条の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督 署長に届け出なければならないとされています。就業規則を変更する場合も同様に、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
まず、正社員でもアルバイトでも、労働条件を明示し、雇用契約を結ぶことから始まります。雇用契約を結んだら、労使共に就業規則に従うことになります。

就業規則は、従業員が守るべき事を明示するだけでなく、雇用主の企業もこれを守る義務があります。しかも、就業規則の効力発生時期は、就業規則が何らかの方法によって労働者に周知された時期以降とされています。雇用契約締結時に就業規則を手渡すあるいは会社のイントラネットや社内サーバのファイルからダウンロードして見るなり方法は様々でしょうが、就業規則の存在と内容について確認をとらなければなりません。生命保険の契約やソフトの使用開始時の規約確認と同じです。

最新の法令に準拠した就業規則になっていますか?


近年は、育児・介護休業法の改正や様々なハラスメント行為の禁止に対応するために、また、働き方改革を進めるために就業規則を見直す企業が増えています。
厚生労働省のウェブサイトでは、「モデル就業規則」がダウンロードできますが、昨年(2019年)3月アップされたモデル就業規則は、随分変更が加えられています。労働基準法や各種関連法規の改定を反映させたものです。このモデル就業規則と見比べながら自社の就業規則を見直すと良いと思います。モデル就業規則は、以下の14章68条で構成され、事例と詳細な解説も交えて、全90ページ(WORD版)になります。

第1章 総則
第2章 採用、異動等
第3章 服務規律
第4章 労働時間、休憩及び休日
第5章 休暇等
第6章 賃金
第7章 定年、退職及び解雇
第8章 退職金
第9章 無期労働契約への転換
第10章 安全衛生及び災害補償
第11章 職業訓練
第12章 表彰及び制裁
第13章 公益通報者保護
第14章 副業・兼業

冒頭の写真は、4年前の2016年に、NPO法人ファザーリング・ジャパンが作成した「イクボス式 会社の就業規則集」(編集は高祖常子・ブライト・ウェイが協力しています)ですが、ここで追加や差し替えを提案していた内容も、最新のモデル就業規則にはかなり取り込まれています。
90ページもあるモデル就業規則の中身をここで紹介するのは無理ですので、以下からダウンロードして、是非ご確認ください。

モデル就業規則 (平成31年3月)WORD版
モデル就業規則 (平成31年3月)PDF版

また、パートタイマー用 モデル就業規則も用意されています。

パートタイム労働者の就業規則の規程例 WORD版
パートタイム労働者の就業規則の規程例 PDF版


2020年4月(中小企業におけるパートタイム労働者、有期雇用労働者については2021年4月)より、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を考慮して、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けることは禁止されますので、注意が必要です。

懲戒処分の対象となるのは?


「リスク回避と危機管理」という視点から就業規則で特に注意しなければならないのは、懲戒処分と副業についての部分です。「第12章 表彰及び制裁」では、
表彰及び制裁について、その種類及び程度に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項に当たりますので、これらについて定めをする場合には、必ず就業規則に記載しなければなりません。なお、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントについては、それらの言動を行った者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知する必要があります。(均等法第11条、第11条の2、育児・介護休業法第25条)
という書き出しから始まります。

第12章第66条「懲戒の事由」の解説文には「就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません」とあります。続けて、「懲戒事由に合理性がない場合、当該事由に基づいた懲戒処分は懲戒権の濫用と判断される場合があります」とも。

第3章の服務規律の例では遵守事項として「しなければならないこと」「してはならないこと」を列記していますが、「その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと」の解釈をどこまで広げるかは曖昧です。例えば、「業務を離れたプライベートな時間に飲酒運転をし、事故を起こした」「匿名でSNSに会社批判を書き込んだ」「不適切な動画を投稿して事業に支障や損害を与えたアルバイト」には懲戒処分を課すことができるでしょうか。
これまで、バイトテロを始めとする世間を賑わした騒動でも「処分について検討中」という報道に留まることが多いのは、就業規則に定めがないため直ぐに処分が決定できず、弁護士や社労士と相談しながら慎重に進めなければならないからでしょう。

業種や業態、自社の位置づけから考えられる「やってはならないこと」があれば、懲戒の対象として就業規則に明示しておく事をオススメします。

副業・兼業を制限するのは難しい


私が就職した当時は、ほとんどの企業で副業は認められていませんでした。しかし現在は「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由である」との判例をもとに労働者の副業・兼業については認めるのが一般的になっています。ただし、労基法 第38条「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とあり、一日・週の労働時間に副業・兼業の労働時間も通算しなければならないため、注意が必要です。
過重労働・超過勤務が原因で事故が起きた場合、 どちらの雇用主に非があるのかが問われることになります。

従業員が問題を起こした際に、なんらかの懲戒処分を課すと明示することは、トラブル発生を未然に防ぐ事に繋がります。
まずは、自社の就業規則が最新の法令に違反していたり最低賃金を満たしていなかったりしないか、上記モデル就業規則をダウンロードして、解説を読みながら検証してみてください。

中堅・中小企業のリスク回避と危機管理-目次に代えて(まえがき)