2018年5月14日月曜日

ネットで炎上している「串カツ田中」の「全席禁煙リリース」について:追記有り


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株式会社串カツ田中が、4月12日に発信したNewsリリース

居酒屋チェーンでは初 6月1日(金)から串カツ田中は全店約180店舗で全席禁煙化し、より多くのお客様からのご愛顧を目指します。

は、嫌煙家や小さな子どもを持つファミリーを始め、受動喫煙防止法案が国会で骨抜きにされていく様を忸怩たる思いで見守っていた多くの人に賞賛をもって迎えられました。ネットでは歓迎(もちろん、喫煙者の落胆も)の書き込みが相次ぎました。「子どもを世の中の中心に置いた、住み良く安全な社会を実現する」をテーマに掲げる弊社にとっても、このニュースは嬉しい知らせです。
 リリースには、
現状居酒屋チェーンでは、一部の店舗や首都圏中心に全席禁煙としている店舗が多い中、ほぼ全店で禁煙化するのは居酒屋チェーンでは初(当社調べ)となります。

 と謳っているように、「居酒屋チェーンでは初」としており、他の居酒屋チェーン、ファミリーレストランチェーンの追随も期待されました。
しかし、5月11日に新たに配信されたリリース

6月1日からの禁煙化に関する最新情報

で発表された内容が6月1日を楽しみにしていた串カツファンやファミリーを落胆させることになり、今度はネットが批判の嵐で炎上することになります。立ち飲み店を除く全店で全席禁煙を期待していたのに、フロア分煙の店舗が22店、「喫煙ルームを設置することは現時点では検討しておりません」としていた喫煙ルーム(ブース)設置を検討中の店舗が4店舗とあったからです。

子連れファミリーは3次喫煙まで警戒


フロア分煙や喫煙ブースについては、「喫煙者が隣の席に座ることがないから良いのでは?」と考える人もいますが、いま、世界的には受動喫煙(2次喫煙)だけでなく3次喫煙まで問題にされています。
昨年、受動喫煙防止法案の内容で綱引きが続いている最中、ダイヤモンドオンラインでは

受動喫煙だけでは生ぬるい!新たな懸念「三次喫煙」の深刻性

という記事を掲載し、実験・測定結果をもとに警鐘を鳴らしました。
恐らく串カツ田中とターゲットが重なるであろうマクドナルドも、かつては多くの店舗がフロア分煙でした。当時マクドナルドを利用したことがある人は、禁煙フロアであってもタバコの臭いが漂っていたことを記憶していると思います。フロア分煙はそれぞれのフロアへの導線を別にしない限り、禁煙フロアの意味はほとんど無いことを、多くの人が体験しているのです。

ブライト・ウェイで運営する【こそだて】でも、記事やFacebookページ、Twitterなどを通じて、受動喫煙やタバコの誤飲、さらには3次喫煙に対する注意喚起も行ってきました。
小さな子どもがいるファミリーでは、盆・正月の里帰り時にタバコの誤飲事故や受動喫煙を避けるために、家の中での喫煙をやめるよう事前に両親に連絡をすることも珍しくありません。

リリースは一方的な発信なので、
より慎重さが求められる


前置きが長くなりましたが、今回このブログを書くきっかけとなったのは、かつての同僚で友人、サイトやビジネスモデル構築コンサルタントの永江一石くんからのご指名を受けてのことです。彼はブログで

【5/11さらに燃料追加!!】串カツ田中さん、禁煙で日和って大炎上。

をアップしていますが、今朝Facebookで
串カツ田中は正式に社長名でお詫び文を出すだろうが、文面は「リリースで誤解を生む表現を使ったことをお詫びします」となるだろうが、誤解を生む表現ではない。誤解を狙った表現であったとさらに炎上するから止めた方がいいよ。素直に85%の店舗で完全禁煙にというのに差し替えた方が良い
と、危機管理の専門家の高祖君がブログ書くとバズると思う。ww
とわざわざ私をタグ付けして投稿してくれたのです。という訳で、バズるかどうかは別として整理してみます。

広報活動は、媒体費に多額の費用を伴う代わりに媒体掲載を確実にできる広告宣伝と違って、記事掲載や番組での取り扱いの保証はありません。その代わりにもし話題になり多くのメディアで取り上げてくれると、媒体への掲載費・出稿料金は発生しません。そのためか近年は広報活動に力を入れる企業が増えて来ました。その多くはニュースリリースを発信する程度ですが、「もしどこかが無料で記事掲載してくれれば儲けもん」程度のところがほとんどです。そのため、メディアへ届くニュースリリースの数は年々増えるばかりで、それを受け取る媒体社・記者の負担は増えている現状です。企業も話題作りのためにあれこれと知恵を絞り、新商品・サービスの発表ではタレントさんを登場させたりと、時には本末転倒の発表会も見受けられます。

ニュースリリースは企業からの一方的な発信です。問い合わせ先を入れていますが,余程のことが無い限り受け取ったメディアは基本的にリリースを元に記事原稿をまとめます。近年ではネットでリリース配信するサービスも増え、配信されたリリースはそのままニュースサイトや媒体社のサイトで掲載されます。ですから、「そのまま記事タイトルに使われる」前提でリリースタイトルを付けることが一般的です。サイトのタイトル同様、リリースもタイトルは重要なのです。
一方で企業からの公式な発表文章ですから、嘘やネットでバズることを狙った誇張は御法度です。発表した時点で企業としての責任を負うことになります。(株)串カツ田中はマザーズ上場企業でIRの担当もいるでしょうから、広報のことはある程度わかっていると思われます。業績予想のような未来の話であってもその内容が株価や様々な方面に影響を及ぼすことは良くあることです。今回の「全席禁煙」も業績に大きく影響を与える事案のはずですから、そのまま記事になって誤解を与えるような曖昧な情報をリリースで発信することは避けなければなりません。

4月のリリースは勇み足だった?


4月の串カツ田中のリリースタイトルは、 普通なら「全席禁煙宣言」と受け取られます。居酒屋チェーンで初の取り組みであれば話題性も注目度も高いので、本気で話題にして欲しければ記者会見までいかなくても記者クラブでの説明会(ブリーフィング)くらいしても良さそうです。しかしそれをしなかったのは「全席禁煙宣言」と受けとめられては困る、あるいは曖昧さを残した見切り発車だったのではと思えてしまいます。記者発表や記者クラブでのブリーフィングでは、必ず質疑に答えることになります。記者発表や説明会は事前に開催を告知するので、記者もある程度内容を予想して質問も考え(私の場合)臨みます。それ(質疑応答)を避けたかったのかもしれません。
そうでないのなら、禁煙実施店リストを添付してリリースするべきだったでしょう。リストを付けていたら、リリースタイトルも変わっていたでしょうが。

深読みすると、4月の発表時には全席禁煙実施をするつもりだったのかもしれません。しかし、串カツ田中はFCでの店舗展開です。FCオーナーへの説明・了解をとる前にリリースを出してしまい、一部店舗オーナーが猛抗議をしたことも考えられます。健康志向イメージが強いあのモスバーガーでさえ、いまだに全店禁煙に踏み切れないのと同じことが起きているのでしょう。そういうことが背景にあるのであれば、生活者に対してだけでなく、身内であるFCオーナーをも裏切ったことになります。
注↓下記追記


串カツ田中は北千住にもあり、いつか行ってみようとは思いながら未経験のお店でしたが、今回、永江くんのご指名を受けて改めて調べてみて色々とわかった事(大阪発祥のお店でないことも!)もあります。その過程でこんな記事(5月12・13日配信)を見つけました。

『串カツ田中』は8割が住宅街。なぜ繁華街を選ばないのか?
「借金してよかった」串カツ 田中の社長が語る“不安経営”

このインタビューの中で、「子どもは大事です。10年後には大人になっていて、だいたいの人はお酒を飲みます。成人より客単価は減りますが、将来のことを考えるとそれでいいのです」と社長は答え、インタビュアーのタケ小山氏は「ある意味、子供が一番のターゲットと言っても過言ではないのだ」とまとめています。

串カツ田中が、来店する子どもを大事にするというのであれば、是非最初の宣言通りに「全店、全席禁煙」に向けて社内(FCオーナー)をまとめて欲しいと思いますし、そうでなければ次回の株主総会では株主からの追求は避けられないでしょう。同時に、今回の腰砕けの成り行きに、受動喫煙防止法案に反対していた煙草議連の議員を勢いづかせないかと心配になってしまいます。そういう意味でも、今回のリリースの出し方は後々責めを負うことにもなりそうで心配です。


追記
このエントリーをアップしたところ、永江君から以下の指摘がありました。

「実はリリース直後の朝日新聞の取材では20店舗は喫煙のママと答えているのだ」と。

居酒屋「串カツ田中」が全席禁煙 全180店の大半で
 
早速他も調べると、日経新聞でも

居酒屋にも全席禁煙の波 串カツ田中、全店の9割で

というのが見つかりました。
朝日新聞や日経新聞の見出しは、「全180店の大半」「全店の9割」となり、リリースの「全店約180店舗で全席禁煙化」とは大きな違いです。さすが大新聞、ちゃんと裏取りとデータの確認をして記事にしていました。この記事で明らかなのは、4月12日時点で「全店禁煙」は実施しないことがわかっていながら「全店約180店舗で全席禁煙化」というタイトルでリリースしていたことになります。他のネットニュースなどではリリースのまま掲載されています。広告ではないので、「優良誤認表示」とはならないでしょうが、嫌煙家や子どもを持つファミリーにとっては「串カツ田中=禁煙店=安心していける店」という良いイメージ(一部店舗については誤認)を与える効果を期待した誇大表現といえますし、確信犯です。
「大半のお店で禁煙」ならうちだってそうだ!という居酒屋チェーンやファミリーレストランもあるでしょう。日曜劇場の「99.9」ではないですが、99.9%のものを100%ということはできません。その差は天国と地獄ほどに開きがあります。それをしっかりと意識できるのが優れた企業経営者であり、広報マンの矜持だと考えます。