大分に出張するときには,もっぱら天神から高速バスを利用しています。バスは長浜から北向きに都市高速に乗り、入ってすぐの分岐を右に進み左手に博多湾を臨みながら暫く東へ進みます。間もなく再び右に進路を変えて南を目指します。
都市高速は高架になっているうえに、乗用車よりも更に視点が高いバスの車窓からはほとんど視線を遮る物なく景色を楽しむ事ができます。天神から高速に入り東進している僅かな時間、マリンメッセの先に大型のクルーズ船が停まっているのをかなりの確率で見ることができます。
5月17日に入港したCOSTA FORTUNA (高速バスの車窓より) |
私は子どもの頃船乗りに憧れ、一時商船大学を目指していたことがあります。大学ではヨット部でしたし、海外の港町に行くと、ヨットや帆船だけでなく大きな船を見るのも楽しみです(本当は乗りたいのですが…)。
ということもあり今では、停泊するクルーズ船を見るのが高速バスに乗る楽しみの一つとなっています。
博多港は日本一のクルーズ船寄港地
博多港は、訪日クルーズ旅客数とクルーズ船の寄港回数で3年連続日本一です。それ以前、2014年まではずっと「港町横浜」が1位でした。
2017年の訪日クルーズ旅客数とクルーズ船の寄港回数(速報値)
|
Fukuoka Facts より |
今年(平成30年)も福岡港湾空港局のデータ-クルーズ客船入港予定(岸壁予約)-によると314回の寄港が予定されています。回数が314回でそのうち11回は複数泊ですので、1年のうち約330日、ほぼ9割の確率で大型クルーズ船が停泊していることになります。
一昨年でしたか私はある日、大型クルーズ船を近くで見ようと休みの日に車で中央埠頭に向かいました。大博通りを北に走り、福岡サンパレスに突き当たるT字路を右に折れ、国際会議場、マリンメッセを左に見ながら中央埠頭に。しかしなんとその日はクルーズ船の姿はありませんでした。事前にネットで調べて行けば良かったのですが、いつも停泊しているイメージがあったのできっと大丈夫だろうと高をくくって港まで行ってしまいました。
あれだけ巨大なクルーズ船ですから、港まで行かなくても途中で船がいるかいないかはわかりそうだと思う人もいるかもしれません。しかし、博多港の状況だと中央埠頭に巨大なクルーズ船が停泊していても市街地からはもちろん、近くまで行ってもなかなかその姿が見えないのです。巨大なクルーズ船も隔離されたような状態で、市民の目からは遠い存在となっています。
博多は交易で栄えた港町であるはずなのに
福岡・博多は交易で栄えた港町でもあります。現在も大型クルーズ船が日本で一番多く寄港し、全国で10位の水揚げ高を誇る漁港(しかも平成28年の取扱金額は438.79億円で全国主要20漁港中1位)も造船所もあります。長崎や神戸、横浜とならぶ立派な港湾都市のはずです。しかし現在の福岡市は、空港が市街地から近く交通の便が良い商業都市のイメージは有っても港町のイメージはありません。横浜の場合は海岸線に沿って観光地となる赤レンガ倉庫や山下公園などもあり、大桟橋に寄港するクルーズ船も都市景観の一部となっています。クルーズ船が停泊していれば、自然と多くの人の目に入ります。しかし博多港の場合は都市高速からは見えても、陸地側からはマリンメッセや国際会議場、福岡サンパレス、倉庫群、それに都市高速などが視界を遮り、その姿は見えないのです。
福岡コンベンションビューローのサイトでも、福岡市の公式観光サイトよかなびでも、観光地としての「港」が紹介される事はありません。実態として横浜を超える日本一の港町なのに、自らそこに目を向けようとしていません。
クルーズ船のお客ではなく船に目を向ける
数千人(最大定員で5000人弱)を乗せた巨大なクルーズ船が入港すると、乗客は限られた時間で市内観光や買い物に出かけるために一度に多くの大型観光バスが必要になります。場合によってはバスの争奪戦となり、学校の遠足やバスツアーなどでもバスが手配できないという話も聞きます。また、いっせいに同じ目的地に向かうために、駐車場や道路を多くの観光バスが占領するなどの弊害も語られています。 様々な条件が整わないと寄港地として選ばれることはありませんから、寄港を望む港からすれば贅沢な悩みかもしれません。
しかし、船からはき出される人ではなく船に目を向けるとどうでしょう?
日本が誇る豪華客船「飛鳥Ⅱ」の全長は240m。普通の港ならこの船が入港するだけでも話題になります。しかし福岡に入港するクルーズ船は300mを超える巨大な船が珍しくありません。誰もが知っている外洋クルーズ船と言えば「クイーンエリザベス3」(全長294m)ですが、それよりも大きな船が今年もこれから何度も入港する予定です。そんな大きな船が港に入る景色は何処ででも見られるものではありません。
上の写真の「COSTA FORTUNA」の全長は 272.2m。タイタニック号(269.1m)とほぼ同じ全長(総トン数は倍以上)です。このような船が入港するとわかれば、見に行こうという人もいるでしょうし、Insta映えする写真も撮れるでしょう。それなのに、ほとんど注目される事はないのです。なんともったいないことでしょう。せっかくむこうからやって来てくれているのに、です。
中央埠頭に向けた定点カメラを設置して、24時間ライブのネット配信も良いかもしれません(流すだけならコストはほとんどかかりません)。クルーズ船の寄港予定がもっとオープンに(例えば朝のTVやラジオ番組で今日の入港クルーズ船情報を伝えるとか)なれば、クルーズ船の姿を見に行く人、巨大な船の着岸風景を見に行く人、船の多くの人に手を振りに行く人……いろいろな人がクルーズ船に引き寄せられるように港に足を運ぶことでしょう。
対岸の博多埠頭からは毎日クルーズ船の出入りも眺められるということで、ベイサイドプレイスの魅力も増し、訪れる人も増えるのではないでしょうか。
巨大なクルーズ船が停泊している博多港の風景が定着すれば、福岡市の魅力は更に増すはずです。