2019年6月21日金曜日

現実に目を向けず「家」制度を引きずり、少子化に向かう日本

今朝、BUSINESS INSIDER JAPANのこんな記事を見つけました。

30代子育て世帯の約1割が世帯年収1000万円以上! 共働きと片働きで二極化する収入

大和総研研究員の是枝俊悟さんの書いた記事で、大企業に勤める30代の平均年収は約500万円なので夫婦共働きなら約1000万円になり、二人なら世帯年収1000万円のハードルは大きく下がるというものです。公的年金2000万円不足問題で、年収1000万円についてネットでも様々な議論を巻き起こしているタイミングでキャッチーなタイトルです。
この記事をきっかけに、日本の子育ての現状について少し書いてみたいと思います。

昭和までは専業主婦が当たり前


私が社会人になった頃の1980年代前半までは、女子大、女子短大卒業後の職業は「家事手伝い」か企業の「一般職」(多くは角丸名刺)でした。どちらも永久就職口(結婚相手)を探すための腰掛け的な位置づけです。いわゆるお嬢様学校と言われる大学だと、卒業後に就職することは恥ずかしいと言う風潮さえありました。卒業後は家事手伝いをしながら花嫁修業をし、良い家の跡継ぎや医者・弁護士、あるいはエリートサラリーマンの嫁になるのが目指すゴールだったのです。家事手伝いのお嬢様が通う「花嫁学校」の取材をしたことがありますが、夫を支える妻としてのスキルや心構えを徹底的に教える学校でした。料理や洗濯、アイロン掛けといった家事全般はもちろん、和服の着付け、お茶やお花、書道などの日本文化、外交官や商社マンの夫と共に海外赴任も想定して語学やテーブルマナー、パーティに際しての立ち居振る舞いまで学んでいました。バブル期を境に花嫁学校という名前はやがて無くなり、発展的にフィニッシングスクールへと移行していったところもあります。

昭和50年代の初婚平均年齢は、男性28歳前後、女性25歳前後でしたから、大卒だと卒業後3年、短卒だと5年ほどで結婚して専業主婦というのが一般的だった頃です。

女性の就業率は上がっているのに出生率が上がらない


1985年(昭和60年)に男女雇用機会均等法が成立し、まもなくバブル景気に突入します。ビジネスの世界だけでなく消費における女性の存在感が高まり、「アッシー」「メッシー」「ミツグ君」といった言葉が生まれるほど男性の消費にまで女性が影響を与えるようになってきました。

就業率の推移

よく言われるのは、先進国では女性の就業率が高いほど合計特殊出生率が高いという正の関係です。しかし、上のグラフでは女性の就業率は右肩上がりであるのに対して、下の合計特殊出生率は男女雇用機会均等法が成立した1985年前後から2005年までは右肩下がりです。

出生数及び合計特殊出生率の年次推移ー内閣府より

女性の社会進出を後押しし子どもが生まれても働ける環境作りのために、育児休業法の改正や子ども子育て新制度のスタートなど、様々な施策が実行に移されています。しかし合計特殊出生率は、2005年の1.26から徐々に持ち直してはいますが、1.44で足踏みした状態です。

都道府県別合計特殊出生率の動向-内閣府より

都道府県別の合計特殊出生率の2011年と2016年を比べると、各都道府県共に出生率は上がっていますが大都市を抱える関東・関西圏は低くなっています。本来なら様々な政策の恩恵を受ける労働力人口が多い(若者が集まる)大都市圏での出生率はもっと上がっても良さそうですが、相変わらず低いままです。これはなぜなのでしょうか?
BUSINESS INSIDER JAPANの記事でもあるように、正規雇用の共働きであれば1000万円前後の世帯収入があり、勤め先の充実した福利厚生や育休制度もあるでしょう。仮に認可保育園に落ちても、高い世帯収入を背景に子育てしながら職場復帰をすることはできるはずです。しかし、そういう家庭はごく一握りです。

子どもがいる家庭の多くは共働き


平成30年国民生活基礎調査の結果を見ると、世帯収入の平均は545.4万円、中央値は427万円です。児童のいる世帯の平均所得金額は707万6千円で一人あたりの所得金額は下のグラフで示すとおり世帯収入のほぼ半分。このグラフから見てもほぼ共働きであることがうかがえます(正規か非正規雇用かはわかりませんが)。

児童のいる世帯の平均所得金額・有業人員1人当たり所得金額
平成30年国民生活基礎調査より
 冒頭で紹介した記事で、大和総研研究員の是枝俊悟さんは以下のような言葉でしめくくっています。
政府は近年、育児休業給付金の拡大や保育所の増設など子育て支援を充実させてきた。
それにもかかわらず出生率が伸び悩んでいるのは、世帯年収の向上や子育て支援の充実の恩恵を受けられたのが事実上共働き世帯ばかりであり、片働き世帯が取り残されていたからかもしれない。

近年、男女ともに婚姻年齢が上がり、生涯未婚率も高くなっています。内閣府が公表している未婚率の年次推移を見ると全年代に渡って未婚率が上がっていますが、なかでも結婚適齢期と言われる25~29歳では6割を超えています。
内閣府の同じレポートには夫婦の完結出生児数(結婚持続期間が15~19年の初婚どうしの夫婦の平均出生子供数)についても記述があります。1970 年代から2002(平成14)年まで2.2 人前後で安定的に推移していたが、2005( 平成17) 年から減少傾向となり、2015(平成27)年には1.94となったと。

女性の未婚率年次推移ー内閣府
日本の政府は、家族を全て戸籍や住民票という書類のベースで考えて処理しようとします。武家社会の家父長制、「家」制度を引きずった考え方です。婚姻は異性のみに許され、嫡出子を全てにおいて優先します。保育園に入るにしても、「家」の単位でポイント制にして順位付けしています。
女性の50歳未婚率が15%を越えている現状で、完結出生児数が2を下回っているのですから嫡出子を増やすことだけを子育て支援とするのは、既に現実的ではありません。しかし夫婦別姓でさえ法改正の道は険しいのが現状です。独立した個人を尊重し、嫡出子・非嫡出子に関わらず一人の子どもとして、あるいはその子の親として向き合い支援するべきです。
ここに、他の先進国(女性の就業率と出生率の正の相関)の仲間に入れない理由が有るように思います。

自ら親になることを選べる国に


2016年に取材で訪れたフランスは根本的に考え方が違っていました。翌2017年、取材をコーディネートしていただいた『フランスはどう少子化を克服したか』の著者、高崎順子さんが帰国された際に、「フランスの子育てのヒントを日本に生かすには」というセミナーを開催しました。
この時に印象的だったのが、フランスでは「自ら選んで親になる」ということでした。そして「親になることを支援する」「親であることを支援する」ために論理的に体系的な子育て支援策を用意するのが政府の役割だと位置づけていること。日本の行き当たりばったり、過去を捨てられない政策とは大違いでした。

このセミナーの書き起こしを、「家」制度を引きずり男女や家庭内の役割分担を固定化したままの昭和生まれの政治家・政府関係者に是非読んでいただきたいものです。