そして今週テレビ・新聞を賑わせているのは、油圧機器メーカーKYBによる免震・制振装置の検査データ改ざん問題。KYBは、もともと萱場製作所(後にカヤバ工業)を起源とするオイルダンパーやショックアブソーバ、サスペンションまわりの油圧緩衝パーツメーカーとして、自動車・二輪メーカーやモータースポーツの世界で有名な「カヤバ」でした(2015年よりKYB株式会社)。KYBのウェブサイトで製品別売上高を見ると、今でも6割は自動車・2輪社向けであることがわかります。
さすが池井戸潤
これだけデータ改ざん・隠蔽について社会の目が厳しくなっているのに、まだ同じ事が繰り返されるのを一般の生活者は不思議に思うでしょう。5年前、ホテル・レストランで立て続けに発覚した食材偽装・メニュー不適切表示の際には、身に覚えがあるホテル・レストランはここぞとばかりに一斉に公表しました。しかし、自動車や建物、あるいはそれらに使用される素材や部材においては、人命や財産の安全に関わる問題であり影響が大きいためにおいそれとは公表できません。過去にまで遡っての補償の問題も出てきます。多くの企業では、それに関わった人たちは口をつぐみ隠蔽しようとします。内部告発や第三者からの指摘で明るみに出るまで長い間隠し続け、その間に傷を深くしていきます。
このような企業ぐるみのデータ改ざんや隠蔽の報道に触れる度に思い出すのが、5年前にNHKでドラマ化され放映された「七つの会議」です。日本的な組織で働いている人は、自分の会社の事かと思う様な会議の様子が描かれます。組織のリアルな葛藤が描かれていて、引き込まれました。下町ロケットと同じく池井戸潤氏の小説が原作です。
今年映画にもなった「空飛ぶタイヤ」も、三菱自動車工業のリコール隠しを題材にした池井戸潤氏の小説が原作でした。そして今度は「七つの会議」が映画化され、来年2月の封切りを控えています。どちらも企業不正の隠蔽を暴く内容です。
企業の不正とそれに立ち向かう会社員の姿を描く映画やドラマが次々と作られている背景には、潜在的な企業への不信感が市民にあるからでしょうか。昨年も「不正や悪事を見逃すと、いずれ時限爆弾や不発弾が爆発する」でも言及しましたが、問題の先送りと隠蔽は、いずれ企業に「倍返し」で解決を迫ることになるのです。