NZのキー首相が辞意 「家族との時間大切にしたい」
ニュージーランドに子育て事情を取材に出かけたのは2012年。クライストチャーチの大地震から1年ちょっと過ぎた頃でした。その時の印象は、誰もが家族や子どもを大切にしている国だということ。
13歳未満の子は、必ず大人が一緒でなければならない(留守番もダメ)。小学校の登下校も必ず大人が一緒。放課後の遊びやスポーツも必ず大人が付き添います。子どもがいると、そのスケジュールに合わせざるを得ません。
下校時刻になると、親たちが子どものお迎えに |
家族との時間を大切にする,優先するという空気は、その後に取材に行ったバンクーバー(カナダ)でもオスロ(ノルウェー)でも共通していました。
そんなお国柄ですから、「家族との時間を大切にしたい」という理由で辞意を表明することには違和感を覚えることはありません。驚くのは、国・国民がそれを受け入れられるということです。
かつて、安倍首相は健康上の理由で首相の座を降りました。それは、健康に不安を抱えたままでは国政に影響を及ぼすという判断からですし、国民も「それなら仕方ない」という形で容認した感じでした。しかし今、安倍首相が「家族との時間を大切にしたい」という理由で首相の座を降りるとは口が裂けても言わないでしょうし、仮に口にした途端に与野党から一斉に批判されるでしょう。そもそも、安倍首相始め政治家のみなさんが家族について言及することは(特別な例を除いて)現在でもほとんどありません。
一億総活躍社会とは?
安倍首相が掲げる「一億総活躍社会」は、第二次世界大戦中の国家総動員法を思い出すような名前でそもそも好きになれません。少子高齢化に立ち向かうためといいながら、このままではジリ貧となるGDPを、女性も老人も働きに出てなんとか押し上げよう(税収確保)とハッパをかける政策のように思えます。
北欧の子育て先進国に共通するのは、国民一人あたりの生産性が高いことです。日本はOECD加盟34カ国中、だいたい21位~22位を行ったり来たりです(日本生産性本部発表「日本の生産性の動向」)。しかも、主要先進7カ国の中では最下位。ニュージーランドは日本よりも一つ低くなりますが、産業構造的に生産性が低い第一次産業中心の国でありながらほとんど日本と変わりません。現在人手不足が顕著なのは飲食業を始めとするサービス業や、農林水産業など労働生産性が低い業種です。そういう業種で働き手が増えても、労働生産性のアップにはなかなか繋がりません。
日本では本来生産性の高い業種においても、「和」や「同調」「空気」を重んじるがために、「顔を揃えるのが目的」のような会議に多くの時間を割いていますし、変化やチャレンジを好まず先送りを繰り返すばかりです。何も決まらず、何も変わらず会議に時間ばかりを費やす組織はそこらじゅうにあります。
現代のIT社会では、顔を会わさずともコミュニケーションも決済も可能なのにです。
また、「お客さまは神様」、あるいは「上司は絶対」意識が強すぎて、無理難題を突きつけ、それに応えるのが良い付き合い方だという主従関係からも抜け出せません。これではとても「家族が大事」とか「家族を第一に」などと言えるはずもなく、家族との時間を取るために早く帰るなどということは言い出せません。
都民・アスリートに続いて「家族ファースト」を
今、イクボス宣言をする企業や自治体が増えていますが、安倍首相・閣僚始め政治家の皆さんは「家族ファースト宣言」をして欲しいものです。「家族が大事」だから、「子や孫のためにも日本をよくしなければ」と具体的に政策も考えられるし想像できます。その延長が組織の働き方・意識を変えていくのではないでしょうか。宮崎議員(当時)が育休宣言をした際には賛否さまざまな意見が噴出しましたが、それは全体が変わらないままに一人スタンドプレーをしたからです。
今回、ニュージーランド首相の辞意報道で、育児にだけ理解を示すのではなく、家族を大事にする国になればという願いがこみ上げてきました。日本にも「こども家族省」のような独立した省庁の設立が必要な時期です。