2017年9月7日木曜日

mikuセミナー 「フランスの子育てのヒントを日本に生かすには」 基調講演 Part2 日本へのヒント

part1より続く

日本でヒントになりそうなことは


親になることの支援策・制度について、日本のヒントになりそうなことを私なりに考えてみました。
現代の日本の生活の中で、「親になるということ」はどういうことなのかな、と考えるきっかけがあると良いのかなと。子どもが産まれたら自動的に親になり、愛情は母性として湧いてくるのではありません。いまのあなたの生活が親になることでどう変わるのか、どういう風なサポートが必要で、誰が一緒にやってくれるの?ということを体系的に考える必要があるのかなと思います。



日本でも「男の産休」を


その準備期間のために、まず母親の産休に加えて父親休暇は必要だと思います。母親は妊娠がわかって8か月の間に気持ちの準備をする、否応なくさせられる時間が有ります。しかし、父親は目の前のパートナーのお腹が膨れていくのを触っているだけで、自分に身体的な変化は無いので感覚が感じ取れません。
2週間である必要はないかもしれません。フランスは長期休暇が普通にあって、それよりもちょっと短い2週間という決め方をしたけれど、日本ならゴールデンウィークやお盆・お正月休みよりもちょっと短い1週間程度の期間で父親休暇を設定してやってみてはどうかと思うのです。それを「男の産休」という言い方にして本などに書いていたら、昨年安倍総理が女性フォーラムの席で「男の産休やります」と言ってくださいました。皆さんも盛り上げてくれたら、結構早く実現するかもしれません。
日本の育休制度は、OECD加盟国の中でも有数の取得期間・補助金の額を誇っています。しかし、実際の取得率が凄く少なく、取っている方でも1週間というケースがほとんどのようです。というのは、育休という言葉に対するイメージが凄く悪いから。子育てのために会社を休むというと、頭の古い上司にとっては、育休 イコール キャリアの中断というイメージが強く有って、それがたとえ1週間であってもなかなか踏み込めない言葉のイメージがあります。だから、「男の産休」でも「父親休暇」でも良いのですけども、新しい言葉、新しい考え方で、父親が休めて子育てに入れる仕組みを作れれば良いかなと。

そのために、フランスでは誰が助けているかというと、第一は医療従事者なのですね。父親の一番の教師役は助産師さんです。助産師さんは発言力が強く、産婦人科の先生よりもお産の現場に実は強かったりします。順調なお産だと、産婦人科の先生は現場に登場しなかったりもします。助産師さんが一人で取り上げます。

出産は高度医療


フランスでは出産を医療として捉えています。なので、出産は大病院に集中させています。手持ちのデータでは、フランスでお産ができる病院は全国で544しかありません。過疎の所は(近くに病院が無くて)大変ですが、お産に間に合うようにスケジュールをあわせて出かけるのです。数的にはちょっと大変なのですが、80万人の子どもは全てこの544病院で生まれています。集約化した分サポートはしっかり、全国どこの病院でも同じ医療サービスが受けられるようにしようとしています。544病院のどこにいっても今日本でも話題になっている無痛分娩で出産できます。その場で決めても受けられます。というのは、麻酔科医が常駐しているからです。途中で緊急帝王切開になるかもしれないので、これは義務です。無痛分娩が女性の権利としてあるので、分娩中には必ず麻酔科医が常駐することが義務づけられています。
集約化された病院で、全国同じような医療サービスが受けられる事の一つに、助産師さんによるサポートもあるのです。
もう一つ、フランスでこの点は良いなと思ったのは、全国統一で出産事項が支援機関に繋がる仕組みがあることです。自治体によって異なるのではなく、母子保護センターという統一の機関があって、フランスで子どもを産んだ人はそこにさえ行けばわかるということになっている。それから、ここが川上からの虐待のスクリーニングシステムにもなっていることです。子どもが産まれて1週間後には必ず医療機関に行くことになっているので、そこで様子がおかしいお母さんお父さんがいたら、医療従事者が見たらすぐにわかります。この人は要チェックだなと思ったら、界隈の医療関係者で情報を共有します。
「え、個人情報を?」と一瞬思って尋ねると、「子どもの安全が第一でしょう」との答えがかえって来ます。ここからも、親への期待値が低いことが理解できます。

仕事と出産・育児を両立させるために


親であることで一番大変なのは、仕事との両立です。仕事と私生活をどういうふうにバランスを取るか。特に私生活では子どもが産まれると、かなりバランスが変わってきます。それは、良いことばかりではなく、もちろん悪い影響もあります。悪い影響、難しい影響を最小限にしようというのがフランスの考え方です。支援の仕方もかなり多角的です。
その1は、なるべくお金をかけさせないようにする。妊娠、出産、育児にまつわる経済的な負担を広く緩和していくのですね。まず、出産関係費は無料、6歳までの子どもの受診料は基本無料、出産祝い金が1000ユーロ(約13万円 2017年9月1日時点)出ます。日本でも出産育児一時金が42万円出ますが、それは出産費用でだいたい消えてしまいますよね。それとは別に1000ユーロもらえるので、皆さんベビーベッド買ったりベビーカー買ったりしています。
子どもが増えることで、税率が下がる人もいます。フランスでは所得税は世帯毎の申告です。たとえば、世帯(夫婦2人)で45万円の課税所得があったとします。そこに子どもが一人生まれると、子どもは成人するまで(所得税の計算上は)0.5人という計算をして、45万円は2.5人による所得という計算になります。子どもが増えれば増えるほど税率は下がっていくわけです。

3歳からは義務教育の保育学校に


3歳からは、全入・無料の保育学校に入ります。わかりやすく言うと、公立幼稚園みたいなもので、国家教育省、日本で言う文科省が教育プログラムを立てていて、自治体で運営されています。3歳以上は全員入れて、待機児童はありません。各自治体は3歳以上の子どもは必ず入学させなければならないと国の教育法で決まっています。もしできないと、自治体に罰則が課されるので、どの自治体も必至に対応します。
3歳からの教育と言っても、まだものの道理もわからないですし、団体行動もこれから覚えていくところです。そこで、国家教育省から修士以上の教養課程を経た教諭、プラス自治体からクラスの副担任のような形で一人、専門の職員が付きます。子どもの手洗いとか食事とか、生活周りの世話はその自治体からの専門職員が面倒をみます。担任の先生は給食は一緒に食べません。休み時間も一緒に過ごしません。なので、完全に教育に集中できます。
フランスの保育学校というのはオモシロイ仕組みなので、もう少しご紹介しますと、だいたい朝8時半から4時半までです。その時間を学校の先生と自治体の職員が見ます。一クラスだいたい25人です。4時半からは学童保育になります。学童保育はそれぞれの学校に付いているので、子ども達は学校の敷地内からは出ません。学童保育は、自治体が雇用した人達がチームを組んで当たります。
学童保育のチームと日中の教員のチームは対等の関係です。学童保育のチームは4時半から6時半までの他に、お昼休みも担当します。3歳から6歳の学童保育では児童8人につき大人一人と配置が決まっているので、25人クラスの場合、児童は教育、副担任、3人の学童スタッフと、計5人の大人に見守られて1日を過ごす計算です。
親御さん達は8時半に子どもを預けて、6時半に迎えに行きます。自治体によっては、通勤時間を考慮して7時45分から朝の学童をやっているところもあります。

全ての育児と保育形態に国からの補助金


3歳未満の子ども達は保育園に預けなければなりませんが、フランスも日本同様保活はかなり大変です。全国平均で保育園の定員は0-2歳児約240万人のうち17%しかありません。育休を取るお母さんもいるので、子どもを預けて働くお母さんはだいたい全体の半分くらいです。それでも保育園が足りないので、保育園に入れない人はどうしているのかというと、母親アシスタント、日本で言えば保育ママに当たる人達が認可を受けて、自宅で小規模保育をやっています。その人の経験であったり自宅の広さによって預かれる子どもの数が違うのですが、一人から四人までみることができます。この母親アシスタントが全国平均で33%位をカバーしています。
それ以外、子どもを団体保育に預けるのは忍びない、4人一緒に面倒見させるのは忍びないという人はベビーシッターを雇って自宅で面倒見てもらいます。母親アシスタントとベビーシッターは、個人間での契約です。
この全ての保育形態に国から補助金が出ます。保育園には運営費が、母親アシスタントとベビーシッターには保護者に対して補助金が出ます。加えて、1年間にかかった保育費の半額が所得税から控除されます。個人ベビーシッターなどはかなり高額になりますから、申告した所得税よりも払い戻される控除額の方が多い場合も有ります。その場合は差額の小切手を送ってきます。ただ、ベビーシッターと契約できる人は払えるだけの所得が有る人です。毎月10万、15万円のシッター代を払える人は、ベビーシッター制度を使った方がお得ということになります。あとで半額戻ってくるので、貯金しているようなものだと言う人もいます。
多様な保育手段には、それぞれにメリットがあります。とはいえ、一番人気はやはり保育園です。フランスでは保育園に預ければ、社会性を早く身につけられるといいます。保育園は認可園のみで、無認可園というものは存在しません。どこの保育園でも、だいたい同じようなサービスが受けられます。

6歳未満の保育・教育に日本の6倍の公的支出


フランスではどのくらい保育・教育にお金を遣っているかというと「2015年 6歳以下の保育・教育に関する公的資金支出内訳」をみてみると、合計が4兆176億円(円概算、1ユーロ=128円)です。0~3歳未満の保育園に行っている子ども達だけで、1兆9916億円です。3~6歳の保育学校に行っている子ども達で2兆247億円を支出しています。これは、保育・教育関連のみで医療費は含まれていません。日本の0~6歳の保育関連費用は0.7兆円です。
どうしてこれだけのお金をかけるかというと、子どもを助けるためには親を助けなければならないという考えなのです。子どもの一番の幸せは親といることであるという、揺るぎない信念があります。虐待する親がいたら、親を助けて親が虐待しないようにすれば良いことだという風に考えます。ですから、親をジャッジしないのです。いかに親と一緒にいられるか、一緒にいられない問題があるなら、それをどう改善できるか。
例えば一つの例として、「保育手段選択の自由」という補助金があります。親が育休を選択した場合収入が減ります。その収入の一部を補填しましょうということで国からお金が出ます。家庭内保育をしても、家庭外保育をしても同じように補助金を出しますよという考え方に基づくものです。

保護者の負担を最小限にして,なるべく辛くないようにしようということで、保育に関する負担はとにかく少なくするよう考えられています。その考え方は、保育園でも同じです。

保育園で保育士がやってはいけないこと


保育園の例を紹介します。
(スライド写真の保育園は)住宅地の1階にあるのですが、もともと公認会計士の事務所でした。園庭は凄く小さいものが中庭にあるだけで、実質ありません。子ども達の外遊びは義務じゃないのです。外遊びをさせるということは危険を伴うので、無理してやることないんじゃないの、という考え方があります。
保育園は、お父さん、お母さん達が入ることを前提にしてあります。送ってきて,お迎えに来て、その時に必ず保育士さん達に申し送りをしないとならないのです。何故かというと、連絡帳が無いからなんです。家での食事や睡眠の状況などを全部口頭で伝えないとならない。そのためには、5分、10分かかります。靴を脱がずに上がれるように、保護者用に靴カバーを用意してあります。

(0歳児クラスの写真)とっても装飾が少ないんです。子ども達はどう過ごしているかというと、基本、床に転がっています。保育士さんは驚くほど抱っこしません。子ども達は好きなように動き回っています。「そんなにほったらかしていていいんですか?」と尋ねると、「子どもだって好きなように過ごしたいでしょう」と。続いて「保育士は抱きたいときに子どもを抱いちゃいけない。自分が抱きたいときに子どもを抱いて良いのは親だけ」だと言われました。「子どもが抱っこして」って来たら抱っこするけれど、それ以外に自分から手を伸ばして来る大人は親でなくちゃいけない。0歳児のどんな小さい子でも、対する大人別に愛着の形成ができる。親のように接する人には、親と同じような愛着を形成してしまうので、混乱が起きてしまう。だから、保育士は絶対にそうしちゃいけない。
私がビックリしたのは子どもの抱き方で、正面から抱っこしちゃいけない。子どもを正面から抱っこして良いのは親だけであって、保育士は全部横抱きにする。腰骨に乗っけて二人抱きするのが保育士さん。

入り口にベビーマットが置かれてあり、ここで子どもの服、冬だったらコートなどを脱がせます。これは親御さんがやります。0歳児のミルクをどんな風にやるのかを決めるのは親御さんです。毎日、今日はどれだけ飲ませてください、と伝えます。それは親御さんだけで決めるんですかと尋ねると、小児科の先生と相談して決めてきてくださいと伝えますと。
保育園では面倒は見ますが、何をどれだけあげたら良いか、子どもの食欲を管理するのは親の仕事ですから、と言われます。言ってくれたらちゃんとやります、と。
ほ乳瓶の消毒や扱いも、全部は国際基準のHACCP(ハサップ)のマニュアルに従ってやっています。

親にも保育士にも負担をかけない


お昼寝は、15分に1回見回りをしています。(スライド写真の)おむつかえ台の下に階段が付いていますが、これは子どもが歩けるようになったら自分で上がらせるんです。おむつかえの度に子どもの上げ下げをすると、保育士さんが腰を痛めるので、負担を減らすためです。
1歳児2歳児の部屋も装飾は何もありません。行事も12月のクリスマス会と、年度末の7月にちょっとしたバザーの年2回だけです。保育園では何をしているかというと、基本、家と同じ過ごし方をさせます。午前中だけは、折角みんなと一緒にいるので、お歌うたいましょう、ダンスしましょうというのはありますが、午後は基本的に自由なひとり遊びです。もちろんお友達と遊んでも良いですが。
国の方針で、保育園までは早期教育はしない方が良いということを打ち出しています。というのは、子どもの発達は「波状発達」だから。例えば文字、認知、行動などいろいろな発達項目があるのですが、あるところが伸びた、でもそれが減ってしまう、でまた伸びてまた減る、という、獲得と喪失を繰り返しながら成長していくというのが、発達心理学的にわかってきている。ということはあまり早期に教育して詰め込んでも無意味だよね、とアカデミア(大学などの専門研究機関)で言っている訳なんです。国はそれを取り上げて、早期教育は止めましょうということになったのです。

フランスの保育園では、基本的に全て共有で物を使っています。シーツも何もかも、全部支給品です。その代わり、みんな同じ物を使います。ただ、これだけでは寂しいので、ぬいぐるみとおしゃぶりだけは自分のものを家から持って来て良い事になっています。寝る場所(ベッド)は固定で、週に1回シーツを替えます。シーツは袋式で寝袋みたいになっていて、そこにすぽんと入って寝るようになっています。掛け布団はありません。
エプロン、シーツ、口拭きなどなど、全て共有にしてどういう風に廻しているかというと、1台の洗濯機と1台の乾燥機で廻してますと。専任の洗濯・掃除をする用務員さんがいて、一人で廻しています。一人の用務員さんと1台の洗濯機、1台の乾燥期でどうしてできるのかなと考えると、人数が違うんですね。フランスでは、認可保育園の最大収容数は60人までと決まっています。日本だと、平均がだいたい60人くらいだそうですね。100人超えの園もたくさんあるようです。対象年齢もフランスよりも広いので、もちろん人数も多くなるんですけど。結果的に人数も少ないので共有でも廻していけるわけです。
親御さん達の負担が少ないということは、同時に保育士さん達の負担も少ないのです。まず行事が無い、連絡帳が無い、それはなぜかというと、子どもの世話に集中して欲しいからなんです。親にとって子育ては大変なこと、イコール、子育てをサポートする保育関係者にとっても、ものすごく大変な仕事という認識なのです。なので、彼らの負担を最小限にしようということで、様々な工夫をし、分業化・スリム化ということを徹底的に行っています。

保育園をどう定義するか


フランスでは、「子どもが尊重されていると感じ、安全に快適な生活をおくる場所である」と定義され、それ以外は二の次とされています。外遊びも必要無い。とにかく、子どもが安全で快適であればいい。教育プランもありますが、それは二の次。保護者の期待値もそれほど高くない。自分が見ていない間、安全で快適であれば良い。別に言葉を教えてくれなくていい。
こんなフランスの状況を見ていて、日本にヒントになることは無いかなと考えると、小規模保育をもっと制度化できたらいいんじゃないかなと思うんですね。保育園を増やすというのは、なかなか難しい。特に日本のように設備に対する期待値が高かったり、園庭が必ずないと困りますというと。フランスの母親アシスタントのような保育ママを、もう少し増やしていけないかな、と。
そのためには、保育手段に対する親の意識改革が必要なのじゃないかなと。日本でも小規模保育はかなり増加傾向ではあるんですけど、まだまだ保育手段イコール保育園という意識があるので、最初から小規模保育園を選ぶ親御さんは、やっぱりまだ少数派です。
私、親御さん達と話をしていて、はっと気がついたのですが、なぜ保育園神話があるかというと、その背景に母親に罪悪感があるからなんです。私が面倒見られないのだから、代わりに最高の環境の所に、できるだけ良いところに子どもを預けたいというのがあるようです。それで、まず認可保育園に殺到して、それがダメなら無認可に、それがダメなら小規模保育園みたいなチャート式の保活になって。最初から小規模保育園を選ぶことができない心理的なブロックがあるのではないかなと個人的に感じました。
そこのところを、子どもを託すときに大事な事は何なのかということを、保活を始める前に親御さん達が考えられるような時間が取れたら良いなと思いますね。
本当に園庭が必要なのだろうか、子ども達は毎日外遊びが必要なのだろうか、朝から晩までお遊戯と行事の準備とお歌の練習で忙しくて、へろへろになって帰ってくるような保育園。それは充実していて教育もされ、良い事なのですが、果たしてそれを自分は子どもに望むのか。という問いかけをするようなことがあっても良いのじゃないかなと思うんですね。

日本の教育関係者の方達とお話しすると、とにかく保育園の毎日はぎちぎちで忙しいと。子ども達が家庭外で過ごす場所だから、できるだけ充実した時間を、とかなり善意のところからきていて。
日本の保育園はとても素晴らしい所が沢山あるんですね。食育なんかもフランスは比べものにならないくらい素晴らしいし、保育士さん達のモチベーションもかなり高いと思うんですけども、最善を尽くして、子ども達に最善を与えようという思いから、もうちょっと軽減できる負担が見えなくなっているのじゃないかな、と思ったりするようなことがあります。

フランスはなるべく関係者の負担を減らそうとします。それは何故かというと、負担を減らすことで、保育士が子ども達に全力で当たれるようにと考えているから。日本も「子ども達の為に」と考えられてはいるけれど、それがどんどん負担を増やしていく。スタートは同じなのだから、もうちょっとお互いの良いところを見つけ合って、無理が来てしまっている部分は何か改善できるではないかと思うんですよね。日本式の充実した保育でも無理が無ければ良いのです。でも、いま潜在保育士さんが70万人超えていて、実際働いている保育士さんの数40万人より圧倒的に多いんですよね。これで保育士さん不足が叫ばれている現状というのは、やっぱり現場に何か改善すべき点があるのじゃないかなあとは思います。
そのうちの一つとして、私はシンボル的に強く言っているのですが、おむつの園内廃棄を何とかしていただきたいと。やっぱり象徴的な例だと思うんです。G8に名を連ねる先進国で、廃棄物を公共の場に持ち歩かせて平然としている社会は良くないと思います。恥ずかしいと思った方が良いと思います。なんでそれがOKなのか。
例えばその理由として「週に2回しかゴミの回収がなくて置いておけないんです」というものがあるですが、介護施設では持ち帰りなく、できているのですよね。何故保育園ではできないのですか?同じ認可園でも園内廃棄をやっている保育園もありますよね。あっちではできて、どうしてこっちの保育園ではできないのですか?ということを、もうちょっと声を大にして話をしても良いのじゃないかなと。

これは国の資料(内閣府)であったんですけど、文京区の認可保育園でオムツを持ち帰っているお母さんが問い合わせをしたそうです。その時の答えの一つがゴミの廃棄の問題で、2番目の理由が「お子さんの健康管理のために、親御さんにはおむつを持って帰っていただいた方が良いと思います」というもの。(持ち帰っても)見ませんよねえ。
私、その場にいたら言いたかったんですけど、「おむつ取れたら、私どうやって排泄物で(子の健康を)管理したらいいんでしょうね?保育園から全部教えてくれるのですか?」と。(保育士さんから全部は)聞けませんよねえ。
誰かがちょっと質問したら、論理的に通らなくなるような理由がまかり通ってしまっているのですね。親がこうあるべきという「べき論」が、現実的な運営上の不具合をカバーしてしまっている状況はよろしくないと思います。それは親御さん達の罪悪感や苦しさを増幅させるだけで誰も幸せにならないんですね。

これだけ孤立育児ですとか、ワンオペ育児ですとかという言葉が流行ってきている中では考える時期に来ているのではないかなと思う次第です。
今、日本で一番やるべき事は、「子育ては大変だ」ということを、社会全体で共通認識を持つことではないかなと思います。それさえみんなが持てば、いろんなことが少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

<開催概要>
2017年08月22日(18:30-20:30)
開催場所:筑波大学文京校舎(茗荷谷キャンパス)4階会議室
(東京都文京区大塚3-29-1 茗荷谷駅下車徒歩2分)
定員:30人(先着順)

<登壇者プロフィール>
高崎順子氏:ライター
東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌ等でフランス語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材、執筆のほか、各種コーディネートに携わる。著書に『パリ生まれ プップおばさんの料理帖』(共著)
フランスはどう少子化を克服したかなど。  


 



mikuセミナー 「フランスの子育てのヒントを日本に生かすには」 基調講演Part1



6月のフランス取材でもお世話になった『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)の著者、高崎順子氏が来日されるのにあわせ、8月22日、miku主催で初めての一般向けセミナーを開催しました。高崎氏の基調講演の後、高崎氏、出産ジャーナリスト河合 蘭氏、育児情報誌miku編集長の高祖常子によるパネルディスカッションの2部構成です。
当日のセミナーの様子を、3回に分けてお伝えします。
 

基調講演:高崎順子氏

「フランスの子育てのヒントを日本に活かすには」


はじめに フランスの合計特殊出生率の推移

フランスでは第2次大戦後の社会の変化に呼応し、女性の社会進出が進むと同時に、1970年代から出生率が下がり始める。1975年に2.00を切り、1994年に最低値1.66を記録。そこから持ち直し、2010年に2.02到達。2011年は2.0をキープしたが、121314年は1.97から1.99で微増減して現在も1.9以上はキープしている。

1960年代70年代の出生率の低下を、フランス政府が冷静に分析。仕事か出産かを選ばなければならなくなった女性は、仕事を優先する傾向が見られました。今のままでは女性は子どもを産まずに仕事を続けていく。逆転の発想で、産めると思って貰うにはどうすれば良いかを考えると、出産・育児と仕事の両立支援しかないという結論に至ります。そこからまず補助金の拡充、そして90年代からは育休制度など、補助金以外の両立支援策を進めていきます。
フランスの出生率回復の話をすると、必ず「多産文化のある移民が貢献している」と指摘されます。私も気にはなっていましたが、実際にフランスで生活している中では、移民だけが貢献している印象がない。フランス国立人口統計学研究所が調べたところ、一番出生率が高かった2010年では、移民女性を除いた数値が1.9、移民は0.1の貢献はあるものの、ベースの部分はいわゆるフランス人の数値とわかりました。フランスで家庭を築いてしっかりフランス人として生活している人がこの数字を支えています。
一方で、日本でも出生率が2.0を切ったのはフランスと同じ1975年。出生率1.66になったのは日本の方がフランスよりも5年早い1988年。日本はそこから回復せず、2004年には最低の1.26を記録し、ここから持ち直して2016年には1.44まで回復。それでも、フランスとはまだ大きな開きがあります。
私は25歳まで日本にいました。日本の妊娠・出産の考え方・常識を持ってフランスに行って子どもを産んでいます。自分が持っていた考え方とフランスで見た現状とで一番大きな違いは、フランスでは「子育ては大変なことだ」という共通認識があること。「お父さん、お母さんだからできるでしょ!」という考え方がなく「こんな大変なことは親だけじゃできないよね」という考え方が基本的にあるのです。それはメディア記事や官報などの文面だけではなく、私自身が感じたことです。
例えは、長男が1歳になって保育園に行くことになったときに、マンションの管理人さん達が井戸端会議をしていました。そこで「うちの子どもが今日から保育園なの」と言ったら、「おめでとう。やっとあなた少し楽になるわね」と祝福されたんです。「これで仕事でも何でも好きにできるようになるから。子どもはいろんな大人に囲まれて育った方が良いし、子育てっていうのは助けられてやった方が、親も子どもも良いんだから」と、管理人さんに言われました。

フランスの子育て支援の2つの柱


充実した子育て支援は、論理的に体系的に組み立てられています。ロジックの建て方には2つの柱が有ります。
1つは「親になることを支援する」。
妊娠したり子どもができたからといって、その日から頭が切り替わって突然「親業」ができる訳ではありません。親には学んでなるもの。準備してなるもの。その親になる過程から支援しようという考え方。
その後親で有り続けるために、親であることをどう支援したら良いかというのが2本目の柱です。
フランスの子育て支援政策では、現場でも、この2本柱で考えられています。まず「親にならせる」そして「親であり続ける」を支える。この2つのポイントを頭に置いていただいて、日本の子育て環境改善のヒントになるようなお話しをさせていただきます。

まず、「親になること支援」。
フランスの出生率回復の話をすると、移民以外にも、アムールのことだったり、変な話、夜の生活がお盛んだから子どもができるんだろうという俗っぽいことを言う人もたくさんいてびっくりします。フランスのデータでは、女性の初産出産平均年齢は30.4歳、過去10年で0.8歳遅くなっています。初産の高齢化は日本と同じです。2015年の全国の出生数は80万人。このうちの95%を20歳から40歳の出産適例年齢の女性が占めています。高齢化が進んでいることが顕著に現れるのが、35歳から39歳の女性です。この年齢の女性が100人いると、2005年では5.6人の出生だったのか、2015年では7人まで上がっています。40歳以上も増えてはいますが、同じく2005年には100人の女性から0.6人生まれていたのが、2015年には0.8人と、増えているとはいえかなり少なめです。これはフランスでは42歳までは不妊治療が医療保険でカバーされているのですが、それ以降は出ないからです。
フランスでは、42歳以上は諸々の事情を考えると出産に適していないと考えている(明確には言わないけれど)ということです。ですから、女性の頭の中にも42歳という出産年齢のリミットがあって、それまでに仕事の設計や家族計画の設定をしているという現実があります。

妊娠の30%はできちゃった妊娠です。そのうちの6割は中絶しています。つまり、中絶に至る妊娠が全体の18%ある訳です。逆に見ると、経緯はどうであれ残りの82%は、親が考えて選んで出産しています。
フランスでのピルの使用率は41%(日本は1%未満)。加えて,緊急避妊薬を未成年には匿名で無料配付しています。学生証を提示すれば成人でも無料でもらえます。中学生高校生には、学校の常任看護師から匿名で受け取ることができます。何が言いたいかというと、産みたくない人は妊娠を止められる手段があるということ。妊娠・出産は女性が自ら選択するものであると明確に示されているということです。
そんな環境で親になることを選ぶ。それでも、親になることは難しいと考えられています。男女、あるいはフランスで認められている同性婚のパートナーシップの中に子どもが入ってくると、関係の変化が著しいのです。その関係の変化がとてもデリケートで悩ましい。けして幸せなものだけではないと、フランスの家族省のパンフレットにも書いてあります。その変化の過程がスムーズである様に周りが助けていこうと。
具体的には、まず情報提供。親になることはどういうことかを、多角的に伝えていきます。

出産だけでなく医療費なども無料


フランスでは妊娠の14週までに医療保険に届け出をすると、それ以降こどもを産むまで医療費が全額無料になります。妊娠7か月からは妊娠周り以外の医療費も全て無料になります。
届け出をするとお得なので、みんな届け出をします。届け出をした人の手元には親手帳が届きます。親手帳には、親になるのは大変だけれども,いろいろ楽しい事もあるよ、ということが書いてあり、更に親になることの精神的・肉体的・社会的負担、法的責任、体罰は無意味だから止めましょうという、最新の発達心理学に基づく説明なども。一番最後には支援先の情報が出ています。フランスは親支援の窓口は全国統一なので、家族省から配付している親手帳に載っている連絡先に電話すれば、誰でも相談に乗ってくれます。日本はだいたい自治体毎にそういう相談窓口がありますね。

妊娠中6回の出産準備クラスが無料で受けられますが、お父さん向けのクラスを開催している病院がかなりあります。また出産時にはパートナーの立ち会いを推進しています。
フランスの法律では、子どもが産まれたときに3日間の有給休暇が取れることが決まっています。これは、会社が雇用したときの義務であり、もし休暇を与えなかった場合には罰則があります。ですから、会社員であれば基本的に子どもの出産に立ち会えます。出産後、母親は平均で4日間入院し、その間に赤ちゃんのお世話の講習を受けます。その講習は助産師さんが各個室に行って行うのですが、そのアポイントはお父さんがいる時間帯にとります。病院では大部屋はあまりなく、だいたい2人部屋か個室です。子どもが産まれると部屋に案内され、「明日からのお世話が始まりますね。お父さんは明日何時に来るの?」と最初に聞かれます。講習は2人に対してやるので、「お父さんが来たら教えてください」と言われます。講習は必ず2人で受けます

2週間の父親休暇


その講習で学んだスキルを存分に発揮するために,フランスには2週間の「父親休暇」というものがあります。これも誰でも取れます。さきほどの出産休暇は労働法で決まっていますが、父親休暇は会社的には無給休暇。医療保険から手当てが払われて、有給休暇扱いになります。雇用主の負担はないですが、社会保険料から自分の給料相当が戻ってきます。労働法の定める3日間の出産休暇と医療保険が出してくれる11日間の父親休暇を合わせて14日間、こどもが生まれて2週間の休暇です。
この後半の11日間については、子どもが産まれて4か月以内であればいつ取っても良いのです。第一子の場合はお父さんお母さん揃って休暇をとり育児を始めますが、第2子以降は子どもを保育園に入れるのを少しでも遅らせようと、母親の産休が終わった直後に父親が休暇を取ります。この父親休暇は、公務員では取得率ほぼ100%です。自営業を含む民間企業ではだいたい70%です。

いきなりどうして2週間も休みがとれるのでしょう?一応予定日の1か月前には雇用主に届けなければならないことになっていますが、いつ生まれるかはわかりません。それでも、いつ生まれても2週間の休みは社会的にもご祝儀程度に認められています。2002年に導入される時にもそれほど反発はありませんでした。なぜ反発が無かったかというと、子どもが産まれることは人生の一大事なのだから、何よりも優先しろという考え方があるからです。加えて、フランスはバカンスの国で、夏期休暇は3週間から4週間みんなが休みます。3週間、4週間みんなが休む習慣があるので、2週間休んだところでいつものバカンスよりは短いしね、と考えます。ということで大きな社会的な摩擦なく受け入れられているのですが、一つ日本との違いを強調したいのが、子育てのための育休ではないことです。父親休暇は正式には「お父さんが子どもを迎えて父親になるための休暇」という名前です。日本では父親休暇というのは存在していませんので、育休の中から1週間なり1か月なりあててお休みを取りますが、名前が育休なので子育てのためと思われるのが当然です。でも、フランスでは違っていて、育休は育休で別にあります。父親休暇の2週間は、「あなたが父親になるために」使ってというものです。
父親休暇を取得した層は取得しなかった層よりも、その後の家事育児の参加が多く見られるというデータがあります。
フランス人は何でもデータを取りたがるので、導入した政策については効果をデータで取ります。

出産後の母親を孤立させない


父親休暇を取った人がどの程度育児に参加しているかを見ると、取った人は取らなかった人より明らかに育児・家事に参加しています。一方、母親にもサポートはたくさんあり、出産後の母親を一人にさせない、孤立させない工夫がいろいろあります。そのためにも父親休暇が存在するのですが。
全国統一の機関で、母子保護センターというものがあります。ここでは妊娠出産した母親と6歳までの子どもを医療的にカバーする、母子限定の保健所のようなところです。産院はこの母子保護センターと連携を取ります。まず、出産1週間後に新生児の体重を測りに来させます。母子保護センターで新生児の体重を測ると、母乳・ミルクの飲みの善し悪しなどは体重の増減ですぐにわかります。母親はしっかりチェックをして欲しいので、新生児用体重計がある母子保護センターに行きます。母子保護センターには、小児科医、小児科専門の看護師、助産師などの医療スタッフが揃っていて、母子をサポートします。産後の肥立ちが良くないとか、帝王切開で動けないなどでセンターに来られないという場合には、助産師の訪問が受けられます。第一回の訪問は無料で受けられます。

産後のサポートについての説明は、家族向けの補助金を監督する家族手当金庫という全国組織のカウンセラーが、入院中に各病室を訪問し、「これからこんな補助金・サポートが受けられます。そのためにはこの書類を書いて提出しなければなりません」という説明をして廻ります。その時に、もし産後に具合が悪いようだったら、助産師さんに訪問してもらえるように手続きしますということまで助言します。産後、母親が一人にならないよう、誰かに育児相談できるような仕組みが整えられています。これは全国統一です。
もう一つ、産後の母親は赤ちゃんの生後1ヶ月半から骨盤低筋トレーニングを10回受けられます。これも医療保険で全額払い戻しが受けられます。どうして骨盤低筋回復トレーニングをするかというと、内臓脱落を防ぐためです。骨盤低筋が緩んだままにしておくと、老後、60歳を過ぎる頃になると内臓全体が下がってきて、それを支えきれなくなるからです。女性のその後の生活のために必要なことだとして、トレーニングするようかなりきつく言われます。


<開催概要>
2017年08月22日(18:30-20:30)
開催場所:筑波大学文京校舎(茗荷谷キャンパス)4階会議室
(東京都文京区大塚3-29-1 茗荷谷駅下車徒歩2分)
定員:30人(先着順)

<登壇者プロフィール>
高崎順子氏:ライター
東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌ等でフランス語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材、執筆のほか、各種コーディネートに携わる。著書に『パリ生まれ プップおばさんの料理帖』(共著)
フランスはどう少子化を克服したかなど。