2017年9月7日木曜日

mikuセミナー 「フランスの子育てのヒントを日本に生かすには」 基調講演Part1



6月のフランス取材でもお世話になった『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)の著者、高崎順子氏が来日されるのにあわせ、8月22日、miku主催で初めての一般向けセミナーを開催しました。高崎氏の基調講演の後、高崎氏、出産ジャーナリスト河合 蘭氏、育児情報誌miku編集長の高祖常子によるパネルディスカッションの2部構成です。
当日のセミナーの様子を、3回に分けてお伝えします。
 

基調講演:高崎順子氏

「フランスの子育てのヒントを日本に活かすには」


はじめに フランスの合計特殊出生率の推移

フランスでは第2次大戦後の社会の変化に呼応し、女性の社会進出が進むと同時に、1970年代から出生率が下がり始める。1975年に2.00を切り、1994年に最低値1.66を記録。そこから持ち直し、2010年に2.02到達。2011年は2.0をキープしたが、121314年は1.97から1.99で微増減して現在も1.9以上はキープしている。

1960年代70年代の出生率の低下を、フランス政府が冷静に分析。仕事か出産かを選ばなければならなくなった女性は、仕事を優先する傾向が見られました。今のままでは女性は子どもを産まずに仕事を続けていく。逆転の発想で、産めると思って貰うにはどうすれば良いかを考えると、出産・育児と仕事の両立支援しかないという結論に至ります。そこからまず補助金の拡充、そして90年代からは育休制度など、補助金以外の両立支援策を進めていきます。
フランスの出生率回復の話をすると、必ず「多産文化のある移民が貢献している」と指摘されます。私も気にはなっていましたが、実際にフランスで生活している中では、移民だけが貢献している印象がない。フランス国立人口統計学研究所が調べたところ、一番出生率が高かった2010年では、移民女性を除いた数値が1.9、移民は0.1の貢献はあるものの、ベースの部分はいわゆるフランス人の数値とわかりました。フランスで家庭を築いてしっかりフランス人として生活している人がこの数字を支えています。
一方で、日本でも出生率が2.0を切ったのはフランスと同じ1975年。出生率1.66になったのは日本の方がフランスよりも5年早い1988年。日本はそこから回復せず、2004年には最低の1.26を記録し、ここから持ち直して2016年には1.44まで回復。それでも、フランスとはまだ大きな開きがあります。
私は25歳まで日本にいました。日本の妊娠・出産の考え方・常識を持ってフランスに行って子どもを産んでいます。自分が持っていた考え方とフランスで見た現状とで一番大きな違いは、フランスでは「子育ては大変なことだ」という共通認識があること。「お父さん、お母さんだからできるでしょ!」という考え方がなく「こんな大変なことは親だけじゃできないよね」という考え方が基本的にあるのです。それはメディア記事や官報などの文面だけではなく、私自身が感じたことです。
例えは、長男が1歳になって保育園に行くことになったときに、マンションの管理人さん達が井戸端会議をしていました。そこで「うちの子どもが今日から保育園なの」と言ったら、「おめでとう。やっとあなた少し楽になるわね」と祝福されたんです。「これで仕事でも何でも好きにできるようになるから。子どもはいろんな大人に囲まれて育った方が良いし、子育てっていうのは助けられてやった方が、親も子どもも良いんだから」と、管理人さんに言われました。

フランスの子育て支援の2つの柱


充実した子育て支援は、論理的に体系的に組み立てられています。ロジックの建て方には2つの柱が有ります。
1つは「親になることを支援する」。
妊娠したり子どもができたからといって、その日から頭が切り替わって突然「親業」ができる訳ではありません。親には学んでなるもの。準備してなるもの。その親になる過程から支援しようという考え方。
その後親で有り続けるために、親であることをどう支援したら良いかというのが2本目の柱です。
フランスの子育て支援政策では、現場でも、この2本柱で考えられています。まず「親にならせる」そして「親であり続ける」を支える。この2つのポイントを頭に置いていただいて、日本の子育て環境改善のヒントになるようなお話しをさせていただきます。

まず、「親になること支援」。
フランスの出生率回復の話をすると、移民以外にも、アムールのことだったり、変な話、夜の生活がお盛んだから子どもができるんだろうという俗っぽいことを言う人もたくさんいてびっくりします。フランスのデータでは、女性の初産出産平均年齢は30.4歳、過去10年で0.8歳遅くなっています。初産の高齢化は日本と同じです。2015年の全国の出生数は80万人。このうちの95%を20歳から40歳の出産適例年齢の女性が占めています。高齢化が進んでいることが顕著に現れるのが、35歳から39歳の女性です。この年齢の女性が100人いると、2005年では5.6人の出生だったのか、2015年では7人まで上がっています。40歳以上も増えてはいますが、同じく2005年には100人の女性から0.6人生まれていたのが、2015年には0.8人と、増えているとはいえかなり少なめです。これはフランスでは42歳までは不妊治療が医療保険でカバーされているのですが、それ以降は出ないからです。
フランスでは、42歳以上は諸々の事情を考えると出産に適していないと考えている(明確には言わないけれど)ということです。ですから、女性の頭の中にも42歳という出産年齢のリミットがあって、それまでに仕事の設計や家族計画の設定をしているという現実があります。

妊娠の30%はできちゃった妊娠です。そのうちの6割は中絶しています。つまり、中絶に至る妊娠が全体の18%ある訳です。逆に見ると、経緯はどうであれ残りの82%は、親が考えて選んで出産しています。
フランスでのピルの使用率は41%(日本は1%未満)。加えて,緊急避妊薬を未成年には匿名で無料配付しています。学生証を提示すれば成人でも無料でもらえます。中学生高校生には、学校の常任看護師から匿名で受け取ることができます。何が言いたいかというと、産みたくない人は妊娠を止められる手段があるということ。妊娠・出産は女性が自ら選択するものであると明確に示されているということです。
そんな環境で親になることを選ぶ。それでも、親になることは難しいと考えられています。男女、あるいはフランスで認められている同性婚のパートナーシップの中に子どもが入ってくると、関係の変化が著しいのです。その関係の変化がとてもデリケートで悩ましい。けして幸せなものだけではないと、フランスの家族省のパンフレットにも書いてあります。その変化の過程がスムーズである様に周りが助けていこうと。
具体的には、まず情報提供。親になることはどういうことかを、多角的に伝えていきます。

出産だけでなく医療費なども無料


フランスでは妊娠の14週までに医療保険に届け出をすると、それ以降こどもを産むまで医療費が全額無料になります。妊娠7か月からは妊娠周り以外の医療費も全て無料になります。
届け出をするとお得なので、みんな届け出をします。届け出をした人の手元には親手帳が届きます。親手帳には、親になるのは大変だけれども,いろいろ楽しい事もあるよ、ということが書いてあり、更に親になることの精神的・肉体的・社会的負担、法的責任、体罰は無意味だから止めましょうという、最新の発達心理学に基づく説明なども。一番最後には支援先の情報が出ています。フランスは親支援の窓口は全国統一なので、家族省から配付している親手帳に載っている連絡先に電話すれば、誰でも相談に乗ってくれます。日本はだいたい自治体毎にそういう相談窓口がありますね。

妊娠中6回の出産準備クラスが無料で受けられますが、お父さん向けのクラスを開催している病院がかなりあります。また出産時にはパートナーの立ち会いを推進しています。
フランスの法律では、子どもが産まれたときに3日間の有給休暇が取れることが決まっています。これは、会社が雇用したときの義務であり、もし休暇を与えなかった場合には罰則があります。ですから、会社員であれば基本的に子どもの出産に立ち会えます。出産後、母親は平均で4日間入院し、その間に赤ちゃんのお世話の講習を受けます。その講習は助産師さんが各個室に行って行うのですが、そのアポイントはお父さんがいる時間帯にとります。病院では大部屋はあまりなく、だいたい2人部屋か個室です。子どもが産まれると部屋に案内され、「明日からのお世話が始まりますね。お父さんは明日何時に来るの?」と最初に聞かれます。講習は2人に対してやるので、「お父さんが来たら教えてください」と言われます。講習は必ず2人で受けます

2週間の父親休暇


その講習で学んだスキルを存分に発揮するために,フランスには2週間の「父親休暇」というものがあります。これも誰でも取れます。さきほどの出産休暇は労働法で決まっていますが、父親休暇は会社的には無給休暇。医療保険から手当てが払われて、有給休暇扱いになります。雇用主の負担はないですが、社会保険料から自分の給料相当が戻ってきます。労働法の定める3日間の出産休暇と医療保険が出してくれる11日間の父親休暇を合わせて14日間、こどもが生まれて2週間の休暇です。
この後半の11日間については、子どもが産まれて4か月以内であればいつ取っても良いのです。第一子の場合はお父さんお母さん揃って休暇をとり育児を始めますが、第2子以降は子どもを保育園に入れるのを少しでも遅らせようと、母親の産休が終わった直後に父親が休暇を取ります。この父親休暇は、公務員では取得率ほぼ100%です。自営業を含む民間企業ではだいたい70%です。

いきなりどうして2週間も休みがとれるのでしょう?一応予定日の1か月前には雇用主に届けなければならないことになっていますが、いつ生まれるかはわかりません。それでも、いつ生まれても2週間の休みは社会的にもご祝儀程度に認められています。2002年に導入される時にもそれほど反発はありませんでした。なぜ反発が無かったかというと、子どもが産まれることは人生の一大事なのだから、何よりも優先しろという考え方があるからです。加えて、フランスはバカンスの国で、夏期休暇は3週間から4週間みんなが休みます。3週間、4週間みんなが休む習慣があるので、2週間休んだところでいつものバカンスよりは短いしね、と考えます。ということで大きな社会的な摩擦なく受け入れられているのですが、一つ日本との違いを強調したいのが、子育てのための育休ではないことです。父親休暇は正式には「お父さんが子どもを迎えて父親になるための休暇」という名前です。日本では父親休暇というのは存在していませんので、育休の中から1週間なり1か月なりあててお休みを取りますが、名前が育休なので子育てのためと思われるのが当然です。でも、フランスでは違っていて、育休は育休で別にあります。父親休暇の2週間は、「あなたが父親になるために」使ってというものです。
父親休暇を取得した層は取得しなかった層よりも、その後の家事育児の参加が多く見られるというデータがあります。
フランス人は何でもデータを取りたがるので、導入した政策については効果をデータで取ります。

出産後の母親を孤立させない


父親休暇を取った人がどの程度育児に参加しているかを見ると、取った人は取らなかった人より明らかに育児・家事に参加しています。一方、母親にもサポートはたくさんあり、出産後の母親を一人にさせない、孤立させない工夫がいろいろあります。そのためにも父親休暇が存在するのですが。
全国統一の機関で、母子保護センターというものがあります。ここでは妊娠出産した母親と6歳までの子どもを医療的にカバーする、母子限定の保健所のようなところです。産院はこの母子保護センターと連携を取ります。まず、出産1週間後に新生児の体重を測りに来させます。母子保護センターで新生児の体重を測ると、母乳・ミルクの飲みの善し悪しなどは体重の増減ですぐにわかります。母親はしっかりチェックをして欲しいので、新生児用体重計がある母子保護センターに行きます。母子保護センターには、小児科医、小児科専門の看護師、助産師などの医療スタッフが揃っていて、母子をサポートします。産後の肥立ちが良くないとか、帝王切開で動けないなどでセンターに来られないという場合には、助産師の訪問が受けられます。第一回の訪問は無料で受けられます。

産後のサポートについての説明は、家族向けの補助金を監督する家族手当金庫という全国組織のカウンセラーが、入院中に各病室を訪問し、「これからこんな補助金・サポートが受けられます。そのためにはこの書類を書いて提出しなければなりません」という説明をして廻ります。その時に、もし産後に具合が悪いようだったら、助産師さんに訪問してもらえるように手続きしますということまで助言します。産後、母親が一人にならないよう、誰かに育児相談できるような仕組みが整えられています。これは全国統一です。
もう一つ、産後の母親は赤ちゃんの生後1ヶ月半から骨盤低筋トレーニングを10回受けられます。これも医療保険で全額払い戻しが受けられます。どうして骨盤低筋回復トレーニングをするかというと、内臓脱落を防ぐためです。骨盤低筋が緩んだままにしておくと、老後、60歳を過ぎる頃になると内臓全体が下がってきて、それを支えきれなくなるからです。女性のその後の生活のために必要なことだとして、トレーニングするようかなりきつく言われます。


<開催概要>
2017年08月22日(18:30-20:30)
開催場所:筑波大学文京校舎(茗荷谷キャンパス)4階会議室
(東京都文京区大塚3-29-1 茗荷谷駅下車徒歩2分)
定員:30人(先着順)

<登壇者プロフィール>
高崎順子氏:ライター
東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌ等でフランス語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材、執筆のほか、各種コーディネートに携わる。著書に『パリ生まれ プップおばさんの料理帖』(共著)
フランスはどう少子化を克服したかなど。  


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