8月20日、消費者庁は、株式会社秋田書店に対し、景品表示法第6条の規定に基づき、措置命令を行いました。
秋田書店が供給する漫画雑誌の懸賞企画に係る表示について、景品表示法に違反する行為(同法第4条第1項第2号(有利誤認)に該当)が認められたというものです。新聞、テレビなどで報道され、WEB上でも話題になっています。
具体的には、「ミステリーボニータ」「プリンセス」「プリンセスGOLD」の漫画雑誌3誌の懸賞企画において、誌面に掲載された当選者数を実際の当選者数より水増ししていたものです。上記措置命令にその詳細が明示してあります。
この報道に接して、育児情報誌mikuの発行人として、あるいはかつて複数の情報誌の編集長を経験した当事者として振り返ってみます。
まず、同じ出版に関わる者として言えることは、読者アンケートは非常に重要なものであるということ。多くの読者の意見を収集するためには、魅力的なプレゼントを用意する必要があると考えるのは極普通の発想です。しかし、プレゼントを準備し、厳正な抽選で当選者を決定し、賞品を発送するというルーチン作業は結構な負荷がかかります。当選者の数が増えればますます大変になりますし、個人情報の取り扱いも慎重にしなければなりません。これが月間や隔週刊、週刊ともなれば大変な作業となり、多くの出版社では、アンケートの集計から賞品の発送作業までをパッケージで外注するところが多くなっています。
それを前提で、「どうしてそんな水増しをする必要があったのか?誰がそれを指示したのか?」という疑問が沸いてきます。これに対して、秋田書店側は「無償で提供してもらっていた景品が不況で減ったから」とコメントしています。要は、自前で豪華賞品を用意することになってコストがかさみ、編集原価が上がるので水増しした、ということでしょうか。しかし私の経験では、当選者数の多さよりも賞品の善し悪しの方が読者の関心事です。当たる確率よりも貰える賞品の良さに期待します。そんなことは読者アンケートで一度でも尋ねてみればわかる事です。同じプレゼントでも、豪華賞品のそれぞれの当選者数を増やさずとも、小さな賞品でも総数でバランスをとることだってできたはずです。
それよりも、愛読者・ファンであれば誌面作りに協力したいという意識も強く働きます。読者アンケートはオープン懸賞ではないので、プレゼントは当たればラッキーくらいの気持ちで応募してくれている人も多いでしょう。そんな読者の気持ちを裏切ったということを、重く感じ取らなければなりません。
また、雑誌ごとの収支は編集長の責任であり評価につながります。販売部数(収入)、広告収入に対して原価、人件費などをコントロールしなければなりません。部数が順調に伸び、販売収入・広告収入が増えていれば、その分編集原価も余計にかけることができます。読者プレゼントや販促経費も増やせます。今回、このようなことが常態化していたということは、部数も広告収入も低迷していたことをうかがわせるものです。編集長の指示だったと考えるのが順当でしょう。読者や執筆者にとっては、今回の不祥事発覚を機に3誌が休刊に追い込まれる(きっかけを与える)事に繋がらなければと願うばかりです。
ところで、当事者でないと知り得ないような不正を、どうして消費者庁が知ったのでしょうか?これは、懸賞を担当していた女性社員がこの水増しの不正を改善するように訴えたことで不当解雇されたとして「首都圏青年ユニオン」に駆け込んだことが発端の様です。これにより、内部告発であったことがわかります。この経緯を見ると、先日放送されていたNHKのドラマ「7つの会議」そのものです。
不正をしない、許さない企業風土・組織作りは、会社の歴史と大きさに比例して難しくなるもののようです。
さて、これからの興味関心事としては、これが会社ぐるみでやっていたのか?
秋田書店ほどの大手がやっているのなら、他の出版社もやっているんじゃないか?
ましてや中小出版社やフリーペーパーの懸賞はどうなのか?
もっと言えば、世の中に溢れる懸賞の類い、特にNET上のキャンペーンへの不信感は一気に高まったのではないでしょうか。
これまでも、今回のような事件発覚をきっかけに、同様の不正が立て続けに発覚するということがありました。秋田書店だけで収束することを願うばかりです。
※当社で発行している育児情報誌miku、WEBサイト【こそだて】の読者アンケート・プレゼントは、外注こそしていないものの、担当スタッフが毎回確実丁寧に発送させていただいています。
8月21日 21時追記
この記事をアップした直後、秋田書店から【社告】として元担当女性社員の供述に対する反論がホームページにアップされているのを知りました。
【社告】毎日新聞の報道に対する弊社の見解について
いずれにしても、「内部告発」したのは元女性担当者だったということなのでしょう。この【社告】でも、元社員と認めたうえでの反論となっています。また、感情的な反論とも見えてしまいます。慌てて出した感は否めません。当初のコメント「無償で提供してもらっていた景品が不況で減ったから」というものとも齟齬が生じます。
どちらの主張が正しいのかは、法廷で明らかになるのでしょうが、いずれにしても秋田書店が読者を裏切った当事者であることに変わりはありません。
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