2018年9月3日月曜日

体操協会からではない塚原副会長のプレスリリースから見えてくるもの

8月29日の宮川選手の記者会見を受けて、日本体操協会が緊急記者会見を行いました。翌日には塚原副会長が「全部うそ」とコメントし、同時に「プレスリリース」で全て明らかにすると言っていました。その日の午後には体操協会の2回目の記者会見が開かれました。
31日、協会の記者会見を無視するかのように、塚原夫妻からFAXによるプレスリリースが配信されました。内容は、宮川選手の会見内容に反論する声明文でした。
第三者委員会も立ち上がらないうちに、一方的な反論リリース。この時点で協会は2人になんらかの処分を下しても良いくらいです。プレスリリース(声明文)の内容についてはこちらの The PAGE の記事が詳しく書いています。




「宮川紗江選手に対する謝罪」のFAXを報道各社に送っています。
FAX全文がデイリースポーツニュースに掲載されています。

塚原夫妻「宮川紗江選手に対する謝罪」FAX全文

声明文、謝罪文の内容やそれに対する宮川選手ならびに世間の受けとめ方は様々なメディアで報道されていますので、ここではそこは話題とせず、広報的な視点からの疑問と問題転を取り上げます。

プレスリリースっていったい何?


宮川選手の記者会見の翌朝、塚原副会長が「プレスリリースします」としきりに口にしていました。私は、日本体操協会から、協会としての見解・対応をプレスリリースするということだろうと思っていました。協会は30日に緊急対策会議を開き、第三者委員会を設置し調査する事を決め、記者会見でそれを発表しました。報道を見る限り、緊急対策会議には塚原副会長は出席していなかったようです。しかしこれが塚原副会長が言うプレスリリースなのかと思いました。

プレスリリースは、報道機関向けの発表・情報提供のことです。文章での提供だけでなく、記者会見や発表会もプレスリリースの形態の一つです。30日に開いた体操協会の記者会見もプレスリリースです。
ところが翌31日、塚原夫妻からはプレスリリースとして5枚の声明文がマスコミ各社へFAXされました。

通常プレスリリースは、政府・行政機関や企業・団体などから発信されます。芸能人や政治家などが個人名で、事務所を通じ報道各社へコメントや謝罪文などをFAXすることもあります。報道機関に向けた発表という意味では、これもプレスリリースに違いはありません。しかし、主語が個人の場合、報道される際には個人の「コメント」や「謝罪」とされ、プレスリリースが届いたとは普通言いません。今回の塚原夫妻の「声明文」や「謝罪文」は、塚原副会長が「プレスリリース」と何度も口にしていたために、報道でもプレスリリースという表現になっているのでしょう。プレスリリースの発信元は2人が経営する体操クラブからか、会社からか、それとも自宅からなのか?少なくとも日本体操協会からリリースされたものでないことは確かです。

リリースをFAXで済ませる意図


報道機関・媒体社には、毎日膨大な数のプレスリリースが届きます。記者会見や発表会はその中では極々一部で、ほとんどはメールや封書、FAXです。記者はリリース全部に目を通すのは不可能です。記者に注目され、取り上げられる確率を上げるために、記者会見や発表会を開催します。
逆に、注目されたくない発表・説明や謝罪に際しては、できるだけ報道されないようにと形だけのプレスリリースで逃げようとします。特に独裁的な立場の人は会見を避ける傾向があります。ウェブサイトに謝罪文を掲載(しかも責任の所在は曖昧)し、FAXを送付するのみというケースがほとんどです。芸能人がプライベートな報告や謝罪をする際にFAXだけで済ませることが多いのも、質問を受けたくないからです。

今回の塚原夫妻は、本来ならば記者会見を開いて説明し、記者の質問にも答えるべき事案です。それをFAXだけで済ませようとしている段階で、宮川選手の告発内容や世間からの批判に正面から向き合うことなく逃げている姿勢がありありです。
そもそも、日本体操協会の人間として発言をしてきた塚原夫妻の言動が問題になっています。協会が2人に説明を求め、会見を開くべきでしょう。しかし、それができないということでしょうから、協会内での塚原夫妻の力がいかに強いか、同時に協会の体質が窺えます。

プレスリリースの発信の仕方、記者会見の開き方を通して、文字や映像から伝わる情報だけでなく、発信者の意図や姿勢が受け取る側に情報として伝わるということです。
今回、日本体操協会の初動(29日の会見)も、その後の対応も決して褒められたものではありませんが、塚原夫妻がそれを帳消しにするようなファインプレーを演じ続けてくれた、皮肉な結果とも言えます。マスコミは塚原夫妻ばかりを追いかけていますが、そもそもは日本体操協会に突きつけられた問題なのです。