2018年5月25日金曜日

内外から猛批判の日本大学。どう対応すれば良かったのか?

日本大学アメリカンフットボール部員が、関西学院大学との試合中に危険なタックルをしたことに端を発する騒動。私はこれまでこのブログで、ポイントになる記者会見を3回取り上げて書きました。

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日大の緊急会見は謝罪ではなく弁明会見、思い出すのは「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件の会見

特に23日に開いた前監督・コーチの会見は大きな話題となり、アメフト部だけでなく日本大学そのもののあり方にまで批判の目が向けられるようになりました。アメフト部の部員や父母会だけでなく、教職員組合など学内でもミーティングを開いたり声明文を公表したりと、内部からの突き上げも激しくなっています。

今回の対応はどこで間違ったのでしょうか?どうすれば良かったのでしょうか?現在進行形ではありますが、一度整理したいと思います。

クライシス(危機)であることを認識できない


先ず何と言っても、感度の鈍さです。政治家やオーナー企業のTOPなど、絶大な権力を持った人が率いる組織は客観的な視点を持てず、世の中の変化に付いていけないことが往々に有ります。今回もその典型でした。

2007年に立て続けに発覚したミートホープ事件や赤福、石屋製菓のまき直しなどの食品偽装、2013年秋に一斉に報じられたホテル・レストランの料理メニュー偽装表示(バナエイエビを芝エビなど)などは、それまで「その業界では常識」、見て見ぬふりをするのが当たり前だったことです。しかし世間では「非常識、消費者への裏切り行為」だと認識されるようになっているのにも関わらずそれに気づかず、あるいは無視した結果です。
世間は嘘や偽装に対して厳しい目を持つようになり、今ではそのような行為はSNSなどネットですぐに拡散され、誰もが知ることになります。

今回のアメフトの危険行為も、早くからYouTubeにはアップされ、内田前監督も周囲からそれを報され、関学大からの抗議文が届く前に見ていたというような発言がありました(22日の会見)。恐らくこの動画に対しては、批判や問題視するコメントがあったから見つけた人は内田前監督に報せたのでしょうが、それが問題だとは感じなかった(恐らく今でも)のです。
この時に客観的な視点で動画を見、コメントを受けとめていればすぐに対応できたのでしょうが、そうではありませんでした。結果、関学大からの抗議文に対しても木で鼻をくくったような回答文を返すことになります。

日大アメフト部だけでなく、日本大学そのものも、今になってもクライシス(危機)に対する対応をしているようには見受けられず、この状況を危機とは認識していないのではないかとさえ思えます。日本大学には危機管理学部があり、その道の専門家もいるので、いつでも助言を求めることはできるはずですから。

クライシス対応は初動が全て


それでは今回はどの時点で、どのように対応すれば良かったのでしょうか。
クライシスマネジメントの鉄則は初動を間違えないこと。危機を認識したら事実確認と情報収集に務め、状況を見極めてできるだけ早く動くことです。企業の場合は即座に「緊急対策本部」を立ち上げ、できるだけ高位の役職者(基本はTOP)を本部長として事に当たるのが基本です。

今回、危機であると認識するタイミングは大きく2つありました。
1番目は上記の通り、Netに動画がアップされ、それが非難されていると認識した時点。
2番目は関西学院大学から抗議文が送付されたタイミング(10日あるいは受け取った日)。

1番目のネット動画に気がつきすぐに対応を取っていれば、10日の抗議文の前に対応も可能でした。関西学院大が抗議文作成に着手する前に適切な謝罪に出向いていれば、そこでこの問題は世間を騒がすことなく終っていた可能性があります。ところが、上記の通りそれを危機だと受けとめる感度がないのですから、ここで動かなかったのは当然と言えば当然でしょう。

しかし、抗議文を受け取った時点では否が応でも動かざるをえません。回答書を求められているのですから、適切に対応する必要があります。動画を見れば分かるとおり、明らかに危険なプレーであり被害者は全治3週間のケガを負っているのですから、まず事実を認めて謝罪する必要があります。
普通なら、以下の様な対応となります。

1,非を認め、謝罪と回答文持参(説明)のために、翌日(できれば朝一番)のアポイントを取る
2,事実確認をするとともに、何故このプレーが起きたのか、背景と原因の調査・特定
3,責任の所在を明確にし、必要であれば(被害者が納得できる、できるだけ重い)処分を下す
4,再発防止策を提示する

これは、まだ関学大が記者会見をする前を想定した対応ですが、抗議文を送付すると同時に記者会見を開いた場合には、すぐさま会見を開くか1~3についてコメントを公表します。 4については策定中として、後の公表でも良いでしょう。

必要なことは、できるだけ早期に最大限の謝罪の意を表明し、責任転嫁や言い訳をせず、反省と処分、今後への改善・対策を明確に示すことです。そしてもう一つ重要な事は、身内だけで対応せず、客観的な目を持った第三者を入れて進めることです。そうでないと、どうしても自己保身に向いてしまいます。
宮川選手は、そのとおりのお手本のような会見でした。

永い目で見れば膿を出す良い機会に


上記はあくまでも問題を起こした際の基本的な対応に過ぎませんが、実際には、日大アメフト部は責任を回避することに終始します。さらに、日本大学の組織や体質が背景に有り、責任の所在・本質は別な所にあることが見えてきました。

今回仮に上記の様に初動を誤らず大事に至らなかったとしても、それはテクニックとしてその場をしのいだに過ぎなかったでしょう。
日本大学では、いずれまた同じような事がアメフト部以外でも起こることを予感させてしまう対応であり、組織風土の様に思えます。今回このような大問題になったことで、同じ悲劇を繰り返す可能性を残すよりも、(膿を出し切り改善されれば)今後の事を考えると良かったのかもしれないとも思えてきました。