2014年6月11日水曜日

ルーズヴェルトゲームのような機密情報漏洩は抑止できるか?

日曜夜9時のTBSドラマ、「ルーズヴェルトゲーム」は「半沢直樹」と同じ池井戸潤氏の原作による連続ドラマ。福岡ドームでお世話になっていた工藤公康氏の息子さんが、準主役で出演していることもあり毎週楽しみに見ています。
このルーズヴェルトゲームでは、青島製作所の独自のイメージセンサー技術を、イツワ電器が不正に手に入れ窮地に追い込まれるという場面がありました。近年、国内だけでなく海外のメーカーとの間でこのようなことが頻繁に起こっているようです。
そこで、政府は7日、企業の技術情報など「営業秘密」が海外に不正に持ち出されるのを防ぐため、秘密漏えいに対する罰則を強化する方針を固めた(毎日新聞6月7日記事より)とのことです。
毎日新聞 2014年06月07日記事より
毎日新聞によると
「営業秘密が不正に海外に持ち出される事件が相次いでいることを受けた措置で、秘密を流出させた社員への罰金を引き上げるほか、罪の規定を企業からの告訴がなくても捜査機関が検挙できる「非親告罪」に改める。
営業秘密を流出させた社員などへの罰金の最高額を現在の1000万円から数倍に引き上げるほか、情報を手に入れて不正な利益を得た法人への罰金も現在の最高3億円から引き上げる。また、現在は、被害企業の告訴が必要な「親告罪」となっている不正競争防止法違反の規定を、被害企業の告訴を必要としない「非親告罪」とする方向で検討」
ということです。

これまでの1000万円以下の罰金であれば、迎え入れる企業が「罰金支払いを想定した高額報酬」や「もしもの場合は罰金を肩代わりする」という条件を提示することもあり、この程度の罰金では抑止に繋がらないとの指定を受けて罰則強化に至ったようです。

ルーズヴェルトゲームのイツワ電器は、どのくらいの報酬を用意して技術者を引き抜いたのでしょう?ドラマの中では明らかにされていませんが、この改正が現実になれば少なくとも流出させた社員にとっては大変な負担になるために抑止力にはなるでしょう。当然、公になれば社会からも冷たい視線を覚悟しなければなりません。一方、海外の企業だと、法人に対しての罰金はのらりくらりと逃げ回ったり支払わずにそのまま海外へということも有るかもしれませんから、彼の国の企業にとってどのくらいの抑止力になるかは不明ですが。

また、転職者を受け入れる際にも、意図せず(あるいはそれが条件ではなくとも期待して)前職場の秘密情報を手に入れそれを利用した場合、それが後に「漏洩」と認定されることも考えられます。非親告罪ですので、ある日突然罪に問われる事もあり得るのです。

いずれにしても、優秀な技術や人材をつなぎ止めておけるだけの企業の魅力と待遇・報酬と結束が求められるということですね。

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2014年6月10日火曜日

ネットでの個人的感想に企業はどこまで責任を負うか

リクルートの同期入社で、カーセンサー編集部でも一緒だった永江一石氏(付き合いが永く、今更「永江氏」でもないのですが、あえて「氏」と書かせていただきます)が、Yahoo!ニュース個人のオーサーを降りたことでネット上で騒ぎになっています。

ソーシャルは難しい。わたしはこれでYahoo!個人に投稿するのをやめることにしました

事の顛末は「Yahoo!Japan佐野岳人氏によるYahoo!ニュース・オーサーの永江一石氏へのコメントについて」(同じくYahoo!ニュース個人 片岡英彦氏の記事)に詳しく説明してあるのでこの場では割愛させていただくとして、この一件は企業/組織人のソーシャルメディアの利用・発信について、まさに「一石」を投じることになりました。

組織人の「個人」としてのソーシャルメディアでの発信が問題になったと言えば、昨年9月、経済産業省の50代男性キャリア職員が自身の匿名ブログに「復興は不要だ」という書き込みや周囲への誹謗中傷など不適切な書き込みを繰り返し行っていたとして懲戒処分を受けたことを思い出します。
「ソーシャルメディアでの「不祥事」を未然に防ぐ、一つのヒント」

このときも、匿名だと自分の素性は突き止められないから安心という気持ちがあったのでしょうが、今やブログ、Facebook、Twitterその他のSNSでの発言と行動をプロファイリング・分析すれば、いずれ誰だかは突き止められてしまいます。そもそも、犯罪を犯すために匿名でSNSをやっている訳ではないのですから、どこかに隙や証拠が残されているものです。
今回の永江氏の一件も、Yahoo!JAPANの現役社員である佐野氏がFacebook上でコメントしたことから始まったようです。佐野氏は単に「個人的な」感想を書き込んだだけだったのかもしれません。しかし、Facebookは原則実名でアカウントを取得し、プロフィールなどを登録します。佐野氏はプロフィールの基本データを「公開」にしています。佐野氏の「しょーもない」というコメントに対して永江氏はフォロワーである佐野氏のプロフィールを確認したところ、原稿を依頼されているYahoo!JAPAN社の現役社員だったことから立腹したということのようです。

Net上では、それぞれの側に立って賛同や擁護、あるいは批判が飛び交っています。
整理すると、話題になっているポイントは

1,佐野氏のコメントはいくら「個人的」とはいえ、原稿を依頼している会社に属している。
  ステークホルダーの一人として他のステークホルダーへの配慮が欠けている。
2,永江氏は個人的なコメントに対して過敏に過ぎないか。他にも何か理由があるのではないか。
  (Yahoo!ニュース個人のオーサーをやめる、一つのきっかけに過ぎないのでは)
3,単なる感想を述べるのに所属する会社まで紐付けられて批判されるのはおかしい。
4,この顛末に対して、Yahoo!JAPANはどのような対応をするのか?

といったところでしょうか。

●今後の興味は所属組織(Yahoo!JAPAN社)の対応に


既に、Yahoo!ニュースへの投稿は終了宣言が出されたので、今後何かの進展があるとは思えません。ただし、佐野氏が所属するYahoo!JAPAN社の対応には注目が集まるでしょう。
今回の一件では記事やブログを通して、Yahoo!ニュース個人の原稿を書いているのはどのような人なのか、謝礼はどのくらいなのか、記事はどのくらい読まれているのかなど、 Yahoo!にとってはあまり触れられたくないようなことまで知られることとなってしまいました(永江氏がそれを意図した訳ではなく)。そういういう意味では、会社にとっても大きな問題と捉えている可能性は高いでしょう。 こうやって注目され話題になっている以上、社内でも何らかの対応は検討されているはずです。

「ネットの炎上投稿、企業はどう対処すべきか」でも一度言及しましたが、アルバイトの悪ふざけ同様、従業員の言動が企業経営やブランドに大きなインパクトを与えるリスク(場合によってはメリット)はこれから益々増大していきます。公開されたSNSだけでなく、LINEのような新たなコミュニケーションツールでの拡散もこれからは注意しなければなりません。
FacebookやTwitterを管理する担当者の不用意なコメントやTweetが物議を醸すことも増えて来ました。そのような際の対応の相談もあります。ビジネス文書なら長い時間をかけて整備されたマニュアルや例文があっても、近年急速に普及したソーシャルメディアについては多くの企業では対応も不十分で未整備です。中高生に教えるように、ネットとの付き合い方や投稿する際のチェックポイントなども、ビジネスマナー同様に従業員研修の中に取り入れるべき時期が来たようです。


2014年6月5日木曜日

子育て支援の受益者は「日本国と全国民」である

昨日は、Net上でもこの記事が話題でした。
5歳から義務教育 文科省方針 「小1プロブレム」の解決へ
http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/03/early-childhood-education_n_5441544.html
産経ニュースより
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140604/edc14060407310002-n1.htm


小学校入学に関しては、「小1プロブレム」と「小1の壁」という2つの問題点がしばしば指摘されますが、一方は教育者からの視点で、一方は親にとっての問題。
しかし、どちらも同じ小1の子どもを取り扱う問題です。親の都合で問題と見るのか、教師や学校の視点で問題と見るかなど子どもにとってはいい迷惑です。

小1プロブレムについては、2012年に取材したニュージーランドの就学前教育指針「テファリキ(Te Whariki)」に基づくカリキュラムと幼児教育が参考になります。

一方、「小1の壁」についても昨年から進められている子育て支援策の充実により、待機児童の解消や学童保育の受け入れ施設の拡充は進みそうです。改正育休法の浸透で、育休明け職場復帰後の時短勤務などがだんだんと定着していくでしょう。しかし、会社でのキャリアアップを考えるといつまでも時短勤務という訳にはいきません。学童保育のキャパシティが増えたところで、夜まで預かれる訳ではありません。

日本生産性本部「日本の生産性2013」より
http://www.jpc-net.jp/annual_trend/annual_trend2013_3.pdf
そもそも、日本は時間あたりの生産性が低い国です。GDPが世界3位で有りながら、時間あたりの生産性はOECD加盟34カ国中では20位。1位のノルウェーの半分以下、4位のアメリカの2/3以下です(2012年)。米ドル換算ですから為替の影響もありますが、いずれにしても労働生産性の低さは前々から言われていることです。
際限の無い残業や24時間営業、無理な多店舗展開によって売り上げを伸ばしてきましたが、ここのところの深刻な人手不足でそれも限界が見えてきました。コンビニエンスストアの営業時間が24時間ではなくなる日も近いかもしれません。

そんなタイミングで安倍政権が「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入しようとしています。ワーキングマザー、イクメンが上手く活用できれば、16時や17時に仕事を終えて帰宅することもできるでしょうが、「個人」「チーム」よりも「組織」を重視する日本の企業風土では難しそうです。

50年後に日本の人口1億人を維持しようとすると、早い段階で合計特殊出生率を2.07以上に引き上げなければなりません。地域住民の反対で保育園の建設が中止になるという事も起きているなかで、実現は可能なのでしょうか?
話が大きくそれてしまいましたが、安心して子どもを産み育てられる環境整備(金銭的な負担低減、労働条件など制度面での整備、保育・託児施設の充実など)と、教育の充実(義務教育から高等教育までの体系、教育費の援助と負担)は、全国民と日本という国が受益者であるという視点に立って見直すべきです。

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