2014年2月3日月曜日

精米器に残った玄米を集めて販売した福岡九州クボタ

少し古い話で申し訳ないのですが、やはりスルーするわけにいかず今頃取り上げさせていただきます。それは福岡九州クボタが、コイン精米器に残った玄米を回収して販売していたというものです。
アクリフーズの冷凍食品農薬混入事件が進行中、福岡のローカルなニュースでしたので、あまり大きく報道されませんでした。概要を知っていただくためにまず、朝日新聞DIGITALの記事をそのまま転載させていただきます。
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2014年1月18日03時09分

精米機に残ったコメ販売 福岡九州クボタ「ブレンド米」

農機具販売会社で米の販売もしている「福岡九州クボタ」(福岡市南区)が、営業所に設置したコイン精米機で不純物を取り除く際に残る玄米を精米し直して、「ブレンド米」として売っていたことがわかった。虫がわいていた玄米も あったというが、多くはすでに飲食店などで消費された。同社は朝日新聞の取材に「偽装と言われても仕方がない」と認め「深く反省している」とした。
 同社によると、コイン精米機は、福岡県内などの営業所に併設。農家などが主に自家用のために玄米を入れ、不純物やぬかなどを取り除き、白米に精米する。精米機には、不純物などとともに、玄米が一部残ってしまうという。
 同社は、残った玄米を、従業員が集めて食べたり、転売したりしないように、2012年11月から、11カ所あった精米機から、少なくとも月に2回、回収し始めた。だが翌月から、こうした玄米を、自社の精米所に持ち込んで改めて精米し、「ブレンド米」と称して売り出した。その後、精米機から回収した玄米だけでは足りなくなり、ブランド米を混ぜて売るようになった。
 同社によると、昨年10月までに、福岡市内の飲食店14店と、主に訪問販売した37人に、1キロあたり350円前後で、計3908キロ(約120万円)を売った。全重量のうち約4割が精米機から集めた玄米だったが、売る際には説明していなかった。
 外部から指摘を受け、社内調査したところ「玄米に虫がわいていた」「ゴミと一緒に玄米を回収した」との証言が従業員から寄せられた。販売した飲食店などには謝罪したうえで返金した。購入した飲食店は取材に対し、「そうした米だとは知らずに客に提供した。今後は気をつけてほしい」と話した。
 同社は九州農政局に自主申告。農政局は昨年12月、産地が特定できないものを販売したなどとして、JAS法や米トレーサビリティー法(産地情報の伝達)に基づいて指導し、改善報告を求めた。同社は「(玄米が)もったいないという気持ちで始めた」と説明している。
 同社は農機具メーカー「クボタ」(大阪市)の関連会社。クボタは「調査の結果、同様の事案は他のグループ会社ではない」としたうえで、「コイン精米機に残った米を販売することは不適切。管理態勢を徹底し、再発防止に努める」とのコメントを出した。(中野浩至記者)
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これだけ食の安全について行政からも注意喚起され、マスメディアでも連日取り上げているのに、まだこんなことをやっていたのかと驚くばかりです。

2007年に相次いだ食品偽装の中には、「もったいないから」と包装し直したり賞味期限の日付を新たに打ち直したり、あるいは一度下げた料理を再利用したりということが発覚して会社そのものの信用を無くしてしまった例が多くありました。それを目の当たりにした企業の多くは我が身を振り返り、身を正したはずです。

「もったいない」だけでなく、「安全」に対しての意識の欠如にも驚くばかりです。コイン精米器は、誰が何を器械に入れたかもわかりません。かつて、自動販売機に置かれた青酸コーラ事件以来、未開封であっても自販機に残された飲料などを口にする人はほとんどいなくなりました。消費者でさえもそれだけ慎重な時代に、企業として組織的に実行していたというのです。
アクリフーズの農薬混入の例を見るまでもなく、誰がどのような行動を起こすのかわかりません。精米器に毒性のあるものを投入することだってあり得ます。誰が持ってきたかもわからない玄米ですから、当然品種も品質もわからないしバラバラででしょう。そんなものを集めて商品として販売していたのです。

しかも、この朝日新聞の記事によると、虫がわいていたような米まで混ぜていたというのは、既にこの一連の流れ(残った玄米の回収→精製→精米→ブレンド→販売)が、ルーチンの業務の中に位置づけられていたことに他なりません。「足りなくなり、ブランド米を混ぜて売るようになった」ということは、販売目標も設定していたのでしょう。

客観的に見れば、悪い事だと直ぐに気がつくはずです。しかし、この記事からすると、もともとそれぞれの営業所で従業員が持って帰ったり転売したりしていた事が始まりのようです。福岡九州クボタは、農機具の販売会社であり、食品を取り扱う会社ではありません。食品を扱う会社であれば起こりえなかった不祥事ではないでしょうか。
ここに至る流れはきっとこんな感じだったと推測します(以下、あくまでも私の勝手な想像です)。

営業所で誰かが勝手に残った玄米を持ち帰るようになった

おかしい、不公平だと誰かが言い出して、それでは不公平がないように営業所で処分方法を考えよう。
(じゃんけん?くじ引き?順番?)

営業所ごとで違う対応に、再び不公平感

それでは全体で集めて、不公平がないように会社として活用方法を考えよう

精米して販売し、その売り上げでみんなで忘年会でもしようか

こうして考え出されたのが不公平感のない「余った米の有効活用法」としての販売。それが思いもかけず好調に売れて、売り上げも利益も出たので販売目標を設定。しかし、会社として販売した時点で売り上げも立てることになります。これまでは「裏金」だったものが帳簿に記載されてしまうのです。ブランド米を仕入れれば原価も発生します。余った玄米の売り上げを忘年会の原資に、みんなで福利厚生的に使おうということもできなくなります。
結果、集められた玄米を販売するという「新たな事業」が生まれてしまったのです。

目先の改善策が知らぬ間に法を犯す

誰かだけが得するのは良くないからと考え出した「改善案」が、会社にとっては「やってはならないこと」に手を出させてしまったことになります。従業員の不公平感を無くすための取組として始まったが故に、食品の販売を始めるという「事業」視点が欠落しているのです。

最初から新規事業として食品の販売を考えていれば、収支だけでなく様々な事業リスクも検証するので、このような「事業」を始めることはなかったはずです。

業務の見直しで、相対的に改善しようと「前よりも良く」を繰り返しているうちに、本来の目的や目標から離れて行ってしまうことがよくあります。誰かが俯瞰的・客観的に見ていないとこのような失敗は起こりがちです。そして、当事者はこの過ちに気づかないことが多いのです。

社外取締役やコンサルタントの活用は、この過ちを犯さないためにも有効です。

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